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_/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』 _/_/
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No. 34 2001年2月21日発行
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皆さん、こんにちは。
今回は前回の続きで特許の紹介です。今回紹介するのは、こんなのが独占さ
れると深刻な事態になるのではないかと思うものと、お笑いものです。
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手話工学研究については日を改めて語る予定ですが、日立製作所は記号列と
手話の変換をずっと研究しています。手話メールもその応用ですが、最終的に
はこれが手話通訳システムになります。記号列を日本語と変換すればいいわけ
ですから。
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出願番号 : 特許出願 平成6-101097
出願日 : 1994年5月16日
公開番号 : 特許公開 平成7-311545
公開日 : 1995年11月28日
出願人 : 株式会社日立製作所 外1名
発明者 : 佐川 浩彦 外2名
発明の名称 : 手話通訳装置
目的 :
手話文の単位で手話の認識を行なうことが可能であり、かつ手話を入力す
る人が変わったり、手話を行なう姿勢が変わった場合でも精度良く手話を
認識できる手話通訳装置を実現する。
構成 :
手話単語の境界に特定の手振りや手の動きの停止、表情を挿入したり、手
話単語の境界で別の入力装置から信号を入力することによって、手話単語
の境界を明確にし、手話文の認識を手話単語毎の認識によって行なえるよ
うにする。また、手話を認識する前にあらかじめ特定の位置や方向を入力
し、そのデータを用いて、新たに入力されてくる手話データを正規化する。
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手話通訳装置では数多くの特許が申請されていて、これはそのうちの1つで
す。これは手話を認識しやすくする方法についての特許です。こういう方法を
積み上げていくと、最終的には手話を読みとって日本語にしたり、逆に日本語
を入力して手話を画面に表示するというような通訳装置ができる、はず。たぶ
ん。
私もこの分野の研究をしてきましたが、大枠はみんなだいたい同じですが、
結局、翻訳には意味の問題が絡んできます。つまり、文章を理解するというこ
とが必要なわけで、これをどうするか? この問題を解決しない限りは、精度の
良い通訳システムは実現しないのですが、いまだこの問題を解決する見込みは
ついていません。
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次は、「えっこんなものが」という出願です。
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出願番号 : 特許出願 平成5-41025
出願日 : 1993年3月2日
公開番号 : 特許公開 平成6-259638
公開日 : 1994年9月16日
出願人 : 株式会社北海道沖電気システムズ 外1名
発明者 : 長ヶ原 和信 外1名
発明の名称 : 障害者対応自動取引装置および自動取引システム
目的 :
耳や言葉に障害を持つ人が不安感なく安心して使用できる自動取引装置を
得る。
構成 :
取引の各段階に対応して表示画面に表示される操作誘導用の文言に対応し
た内容の手話の動画データが格納されるレーザディスク装置4と、レーザ
ディスク装置4に格納されている手話の動画データを取引の各段階に対応
して読み出す操作制御部2と、操作制御部2が読み出した動画データを表示
画面の所定の領域に動画表示する画面表示編集部3とを備える。
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図がないのでわかりにくいのですが、これは何なのかというと、ATMのような
装置で手話を表示することで、聴覚障害者にも使いやすくした、というもので
す。気になるので請求の範囲も見ていきましょう。(長いですけど。)
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特許請求の範囲 :
請求項1 : 顧客の操作を誘導するための文字、図形等を表示する表示画面
を有する自動取引装置において、取引の各段階に対応して前記表示画面
に表示される操作誘導用の文言に対応した内容の手話の動画データが格
納される記憶手段と、該記憶手段に格納されている手話の動画データを
取引の各段階に対応して前記記憶手段から読み出す動画データ読出手段
と、該動画データ読出手段が読み出した動画データを前記表示画面の所
定の領域に動画表示する画面表示編集手段とを備えたことを特徴とする
自動取引装置。
請求項2 : 特定の周波数の電波を発信する電波発信機から発信される電波
を第1、第2の受信アンテナを介して受信する受信部と、該受信部が受信
した前記第1の受信アンテナを介して受信した第1の電波の波の数と前記
第2の受信アンテナを介して受信した第2の電波の波の数をそれぞれ各別
に検出する電波数検出部と、該電波数検出部が検出した前記第1、第2の
電波の波の数を比較することによって前記電波発信機の位置を検出する
位置検出手段と、該位置検出手段が検出した検出結果に基づいて誘導情
報を出力する誘導情報出力手段とを備えたことを特徴とする自動取引装
置。
請求項3 : 顧客の操作を誘導するための文字、図形等を表示する表示画面
を有する自動取引装置と、該自動取引装置の稼働状況を監視する監視装
置とを備えてなる自動取引システムにおいて、前記自動取引装置には被
写体の映像を撮影するカメラ部と、該カメラ部で撮影された映像のビ
ジュアルデータを前記監視装置に送信する送信手段と、前記監視装置か
ら送信される手話の動画データの内容を前記画面表示部に表示する画面
表示編集手段とを備え、前記監視装置には顧客が障害発生時に訴えるで
あろうと予測される手話の内容に対応した応答パターンの手話の動画
データが記憶される記憶部と、前記自動取引装置から送信される前記
ビュアルデータをイメージデータに変換するデータ変換部と、該データ
変換部で変換されたイメージデータから手話の内容を解読する解読部と
該解読部によって解読された手話の内容に応答する応答パターンの手話
の動画データを前記記憶部から読み出す応答パターン読出手段と、該応
答パターン読出手段が読み出した応答パターンの手話の動画データを前
記自動取引装置に送信する通信制御部とを備えたことを特徴とする自動
取引システム。
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請求項1でATMのような装置に手話データをレーザーディスクのようなもので
準備しておくことを、請求項2で、このATMのような装置が外部から無線で操作
できることを、請求項3でカメラによって利用者を見てそれに応じた手話を表
示することを特許権として求めています。つまり、これが通ったらATMで手話
を表示することは、北海道沖電気に許可されないとできなくなってしまいます
ね。
銀行のATMでどうでもいい絵が表示されることがあります。そこで手話が表
示されると気がきいていると思うのですが、それを特許として独占しようとい
うのがこの出願です。
ただ、この出願は、審査が未請求になっています。つまり、書類は出したけ
ど特許にする意志は、まだ、ないようです。これはよくある手で、とりあえず
書類だけ出してしまい、他の誰かが特許を取るのを防ぎます。そして、事業化
のメドがついた時点で特許にするわけです。実は特許というものは維持するの
にも毎年お金が必要です。そのため、書類は出したけど、お金にならないとわ
かると、そのまま特許にならないまま終わることもあるのです。
聴覚障害者は文字が読める人が多いので、あまり困らないかもしれませんが
製品として手話に関係するものを作る場合には気をつけなければならないとい
う例でしょう。
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次は、私自身がとてもびっくりした出願。これは特許になると深刻だと思い
ます。請求項まで一気に紹介します。
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出願番号 : 特許出願 平成9-68257
出願日 : 1997年3月21日
公開番号 : 特許公開 平成10-265152
公開日 : 1998年10月6日
出願人 : 株式会社日立ビルシステム
発明者 : 工藤 雄治
発明の名称 : エレベータの非常連絡システム
課題 :
本発明の目的は、聴覚障害者、視覚障害者、身体障害者等が、エレベータ
乗りかご内で非常事態に遭遇した場合でも非常連絡がとれるエレベータ非
常連絡システムの提供。
解決手段 :
エレベータ制御盤2によりエレベータ乗りかご1が非常状態になったことを
検出し、乗りかごコントロールユニット3に状態を通信ケーブル6aを介して
伝送し、手話表示データ及び音声出力データに変換し、手話表示ユニット4
及び音声放送装置5にて乗客に非常状態を知らしめる。
効果 :
手話と音声により、エレベータ乗りかごの非常状態を知らせるため、聴覚・
視覚・身体障害者等の人が乗っていても、乗客の不安感を解消することが
できる。
特許請求の範囲 :
請求項1 : エレベータを制御する制御盤と、制御盤の指令によりエレベー
タ乗りかご内の機器を制御する乗りかごコントロールユニットと、エレ
ベータ乗りかごの側板に設置され、前記乗りかごコントロールユニットか
らの指令により、手話を表示可能な手話ユニットとこれに連動した音声を
放送する放送装置とを具備するエレベータの非常連絡システムにおいて、
エレベータの非常事態が発生した場合に、聴覚及び視覚障害者、身体障害
者に対し、事態を連絡すべく、手話及びこれに連動した音声による連絡手
段を有することを特徴としたエレベータの非常連絡システム。
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これは何かというと、エレベータに小型のテレビのようなものをつけておき
エレベータが故障して中に聴覚障害者が閉じこめられた時、このテレビを通じ
て手話を表示することで聴覚障害者に連絡を取る、というシステムです。
実はこの会社は前にテレビそのもので手話を電送するシステムで出願してお
り、これは日立製作所が作っている手話電送システムに対応したものと言えま
す。
これも審査未請求です。が、これが特許になると、日立ビルシステムの許可
なくしてエレベータにテレビを付けることができなくなるでしょう。エレベー
タというと日立以外にも東芝が有名だと思うのですが、聴覚障害者がどちらの
会社のエレベータに閉じこめられるかはわかりませんから、深刻な問題になる
かもしれません。
もっとも、現在のエレベータのほとんどは音声しか外部連絡手段はついてい
ませんから、その方がずっと問題だと思いますけど。
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最後はお笑い系の特許です。いえ、そんな分類はありませんけど、私がこれ
を見たときは、思わず笑ってしまいました。
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出願番号 : 特許出願 平成8-356044
出願日 : 1996年12月25日
公開番号 : 特許公開 平成10-180654
公開日 : 1998年7月7日
出願人 : 六車 義方
発明者 : 六車 義方
発明の名称 : 義手付自動車
課題 :
肢体不自由者向自動車にスレーヴ義手をつけて、走行しながら義手を動か
せて協調作業ができ、また道路走行中に他の自動車へ手振り・手話・合図
などを送れる義手付自動車を提供する。
解決手段 :
両手不自由者向自動車1の外部に一対のスレーヴ義手2及び義手固定部材5を
設け、両手不自由者向自動車1の内部に両手操作型義手操縦手段を設ける。
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これは何かというと、車にマネキンの手をつけて、他の車と手話で会話しよ
うというものです。気持ち悪いですね。車に手がはえているんですよ。なんか
昔の特撮に出てきたロボットみたいですね。
これも審査は未請求です。とても産業上有用と思えないので特許にはならな
いでしょうし、誰もこんな車を作る人もいないと思いますけど。
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特許については、昔の話ですが、私も若気の至りというような発言をしたこ
とがあって反省するところがあるのですが、それを踏まえても、私は今でも特
許はもう廃止すべきだと考えています。
これだけ科学技術が発展し、コンピュータが発達すると、頭で考えたことが
すぐに物として実現できます。特に最近アメリカから広がってきているビジネ
ス特許は、アイデアそのものであり、昔ならとても認められるものではありま
せん。それを特許として認められてしまうと、今度は逆に他人の発想を制限す
ることになります。すでに特許は公然にするための手段ではなくて、こっそり
とだまし討ちするような状態になっています。これだけ進歩してしまうと、誰
かに教えてもらわなくてもできることが多いんですよね。今でも特許制度を維
持しているのは、法曹界の意地という気がするのです。
特許が本当に産業に役立つためにあるのなら、少なくともビジネス特許のよ
うなアイデアに関するものはやめるべきだと考えています。人間の知識という
ものは特許ではなく著作権で保護すれば十分だと考えます。でも、これは私を
含めて、少数派の意見です。
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最後に余談ですが、怪しげな通信販売の広告で「特許出願中」なんて書いて
あるのがありますが、私にはあれに意味があるとは思えません。特許はこっそ
り取って、誰かが使っているのがわかったら、使用料を請求するのがうまいや
りかた。そんな堂々と「出願中」なんて書いたら、異議申請されちゃうんじゃ
ないですかねぇ。
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では、また来週。
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