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             _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』   _/_/
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No. 113                                             2007年 4月11日発行
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

  こんにちは、定期券をいまだにPASMOにしていない徳田です。
  SuicaとPASMOの相互乗り入れが始まったので、私の住んでいるところから西
船橋を経由して千葉市の方に行くのがすごく楽になりました。西船橋の駅の中
が分断されたのは、ちょっと不便のような気もしますけど、私はあんまり使わ
ないからいいや。

  石川県の地震もようやく落ち着いてきたようです。少なくともこの原稿を書
いている時は余震も震度3程度になってきているようです。でも、震度3でもす
ごいですけど。あんなに地震が少ない地域が、一気に地震多発地帯ですね。

  以前もお知らせしましたが、石川県の状態は県ろう協のブログに詳しく載っ
ています。詐欺集団が乗り込んできたり、読売新聞がわけわからん記事を書い
たりと、色々とトラブルもあるようです。支援も大切ですが、今後、自分の地
域で災害が起きたときのことを考えると、石川県ろう協のブログは、とても参
考になります。是非、ご覧ください。

  石川県聴覚障害者協会ブログ
  http://ishikawa-deaf.cocolog-nifty.com/blog/

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  さて、今回のテーマは障害者権利条約です。
  日聴紙を始め、全通研の研究誌や様々な障害者団体の機関誌でも取り上げら
れていますから条約の存在自体はご存じの方も多いでしょう。国連では、昨年
の12月13日に採択されました。

  聴覚障害関係者として特に注目すべきと言われている点は、この権利条約で
は、手話を言語として明確に定義したことです。

  原文は以下の所にあります。
  http://www.nginet.or.jp/box/UN/61th106conventionRPD.pdf

  一番端的にわかるところは、4ページ目のArticle 2の定義のところ「言語と
は、音声言語、手話、その他の非音声形式の言葉のこと」と書いてあります。
あっ、そうそう、この訳は適当です。

  きちんとした和訳が欲しい方は川島氏と長瀬氏による以下の仮訳をどうぞ。
もうしばらくしたら公式の訳が登場するそうです。
  http://www.normanet.ne.jp/~jdf/shiryo/convention/29March2007CRPDtranslation.html

  さて、私はザッとしか読んでないので、もしかすると正確ではないかもしれ
ませんが、障害者権利条約での、手話の言語に関する記述はそれほど重要な記
述には見えません。

  確かにすごいことなのかもしれませんが、Article 2の節はたくさんの単語
の定義が書いてあるところで、印象としては単なる説明文です。法学的にはそ
れが重要なのかもしれませんけど。

  でも、並べてある言葉をズラズラ〜っと見ていくと、「障害者それぞれに適
切な処置をする必要がある。それがろうあ者にとっては手話」と言っているぐ
らいの意味合いに感じます。
  つまり、視覚障害者への点字や音声ガイド、肢体不自由者への介助や車いす
と同じ程度の扱いのように感じます。車いすの重要性は一般世間の人にだって
疑いのない事実となっていますが、手話もそうなんだよ、ってサラッと書いて
あるだけです。これはすごい一文ではあるのでしょうけど、一般の人にこれだ
けで理解を深めろと言っても、難しいなぁ、と思うわけです。

  後ろの方に行けば、そうでないことが書いてあるかもしれませんが...
  じっくり読んだ方がいたら、どうぞ教えてください。

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  さて、ひねくれ者の私としては、手話が言語として認められた、と言われて
も「そんなの私は前から認めていたよ」と思いますし、条約で定義されたから
と言って、日本社会が急に変わるわけではありません。

  何か問題が起きたときの根拠として使えるかもしれませんが、そのためには
じっくり読み込まないとなりませんね。結構大変ですよ。

  でも、それよりも気になっているところがあります。「合理的配慮
(reasonable accommodation)」という言葉、概念です。2年半前に発行した
「語ろうか」のNote.12で書いたのですが、なんとも不思議なこの訳語チック
な言葉に、何か隠し球的な雰囲気を感じていました。

  それで、ちょっと調べてみた結果、解釈のありようによっては、確かにこの
言葉は隠し球で、私個人の見解としては「障害者の権利条約で手話が言語に認
められた、バンザイ」とはならないのでは? というのが今回のお話です。
  むしろ、言語に認められたがために、手話が一般世間から遠い存在になるか
もしれません。

  と、ちょっと極端に書いてみました。こう考えるに至った理由を書きますの
で、じっくり読んでください。
  では、いよいよ本編です。

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  今回の話は、直球で説明すると、わかりにくそうなのですが、ちょうどよい
事例を見つけたので、それを柱に進めていきます。

  ちょっと前のことです。インターネットに個人同士のQ&Aサイトというもの
があります。誰かが疑問を載せると、それについて知っていることを他の誰か
が回答するというサイトです。匿名で、お互いの報酬無しで、感謝のみで運営
されているのがなかなか興味深いサイトであります。

  そこのサイトで、こんな質問がありました。(文章は私が編集してあります)
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  私は、IT系の講習会を運営する小さな会社を経営しています。
  最近、聴覚障害の人が申し込みをしてきて、手話通訳をつけることを求め
  られました。そこで、手話通訳について調べてみたら、とてもうちのよう
  な小規模な講習会では、まかないきれないぐらい派遣料は高額でした。手
  話通訳をつけたら確実に赤字です。
  私としても障害者の方にも受講して欲しいので、なんとかしたいのですが
  赤字にしてまで講習会を続けていたら、私の会社が傾いてしまいます。
  その聴覚障害者の人からは「講習会を主催している側がつけるべきだ」と
  言われています。どうしたらよいでしょうか?
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  私も、これは難しい問題だなぁ、と思っていたのですが、なんとあっさり、
障害者の権利条約に答えが書いてありました。そのキーワードが「合理的配慮」
です。

  答えから言いましょう。この場合は手話通訳をつけなくていいんです。

  私なりに障害者権利条約的な解釈をすると、上記の例は「負担が大きすぎる
から、無理でしょ。しょうがないね」で済むんです。

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  ちょっと回り道ですが、一般的な人権について考えましょう。

  日本国憲法の13条では、次のように述べています。
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  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する
  国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の
  上で、最大の尊重を必要とする。
  ------------------------------------------------------------------

  私は法学については大学の教養レベルの知識しか持っていませんが、記憶に
間違いがなければ、この条文によって、日本では個人の権利が人権として「最
も」尊重されていて、それを制限するのは「公共の福祉」だけ、って事になっ
てます。

  では、「公共の福祉」とは何でしょう?

  「公共の福祉」なんてまともに習ったのは、中学生か高校生の社会の授業で
しょうか。私にしてみても、もう20年以上昔です。
  私の担任が社会科でしたが、公共の福祉については、えらく長々と説明して
いたように記憶しています。なかなか難しいんですよね。

  実は公共の福祉がなんであるかには、説がいくつかあるらしいのですが、確
実に言えることは「みんなの迷惑になるから、あなたは○○を我慢しなければ
ならない」というものでは「ない」ようです。この回答だと30点の赤点ギリギ
リぐらいしかとれないみたいです。

  というのは、「みんな」というところが肝心で、不特定多数の社会の意味で
「みんな」を使ってしまうと、マズイんです。

  もし、社会の意味の「みんな」で解釈すると、
  - みんなのためには、ゴミを道路に捨てちゃダメ
    (これはまぁいいか)
  - みんなのためには、電車が遅れないように、駆け込み乗車はダメ
    (そうだよね、うんうん)
  - みんなのためには、満員電車に車いすで乗っちゃダメ。
    (うーん、確かにラッシュが厳しくなるけど... なんか違うような...)
  - みんなのためには、歩きにくくなるから点字プレートを道路につけちゃダ
    メ (歩きにくいのはそうかもしれないけど、それは違うのでは...)

というように、漠然と「みんな」とか言い出すと、おかしな方向に行ってしま
う。こうなると、そもそも憲法が保障している「人権」、つまり個人が尊重さ
れなくなってしまうわけです。

  なぜ、こんなことになってしまうかというと、「公共の福祉」として「みん
な」のような漠然とした社会のようなものを想定したから間違ってしまったわ
けです。
  「公共の福祉」は社会ではない。あくまで、人権を制限できるのは人権、つ
まり「公共の福祉」は、他人の人権なんです。こういうのを「一元的内在制約
説」と言うそうです。

  説と言うぐらいですから、他にも二元的内在外在制約説とかもあります。そ
れに上記の例でも、道路に勝手にゴミを捨てるのはダメっぽい気がします。捨
てる人は楽でしょうけど、それだと私の人権が侵されるように思いますし。

  そんなこんなで、公共の福祉だけでも、裁判で判例を重ねているという現実
もありますし、明確な線引きは難しいところです。
  でも、救急車が信号無視して、他の車を停止させて、道路を渋滞させてでも
患者を病院に運ぶことは、みんなの迷惑にはなるかもしれませんけど、憲法が
保障する患者の人権は守られています。このように日本の社会では、人権を守
るためには、社会へ負担を求めることはあります。
  逆に、住み慣れた所を電車が通るから、もしくはダムを造るからということ
で引っ越しさせられると言うように、個人の人権が押さえられることもありま
す。

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  話が広がってきましたが、来週は合理的配慮にグッと絞って、最初のQ&Aに
ついての種明かしをします。

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  では、次回の語ろうかをお楽しみに。

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