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             _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』   _/_/
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No. 112                                             2007年 3月28日発行
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

  こんにちは、花粉症でないことをとてつもなく感謝している徳田です。
  あれはつらいですね。空気が取り込めなくて、思考力がゼロになってしまい
ますから。このままずっと花粉症とは無縁であることを天の神様にお祈りして
おります。

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  さて、今回は久しぶりの通常番号シリーズです。

  今回のテーマは、全国検定。ちょっと前にも書きましたが、再び登場です。
  というのも、最近、掲示板で全国検定と技能検定が話題になっていまして、
そこである一つの注目すべき指摘がありました。

  それは「検定に色々問題があることは指摘されているが、では、一体どうす
ればまともな試験になるのか?」というものです。(表現はもうちょっと穏やか
ですが、意味はこんな感じ)

  確かに、これは重要です。文句ばかり言っていては、ただのクレーマー。知
恵のある人間であれば、もっと建設的に、前向きな議論をしたいものです。

  ということで、私の得意な工学的側面から考えてみました。

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「手話を試験する」ということについての問題点を3つに絞って考えてみます。

  1. 何を基準にするのか?
  2. その基準に到達しているかをどう判断するのか?
  3. 判断の正当性を確認できるか?

  この3つは手話検定だけではなく、英検でも、普通の入試でも、運転免許で
もどんな試験でも考えなければならない課題です。

  最も身近で、あまり文句をつける人がいないぐらいきっちりと行われている
自動車の運転免許について、この3つの問題にどう対処しているかを見ていき
ますと、こんな感じです。

  1. 道路交通法が基準
  2. 学科試験と技能試験と適性検査で判定。
  3. 学科試験はマークシートなので問題も残るし、回答用紙もあるので、や
     ろうと思えば検証可能。

  つまり、技能試験は、運転技術を試験官が見極めます。その方法は道路交通
法や施行令および長年の実績から、線からはみ出したらダメとか細かく決まっ
ているので、社会的にみて、ほぼ納得できる内容になっています。
  適性検査は、視力や聴力など、一般的な身体測定の項目なので、客観的に検
証可能です。
  ある意味、警察という最強の行政機関ブランドに頼る点はありますが、試験
のやり方そのものもそんなに問題があるようには思えません。

  もう一つ、違う試験の例をあげておきます。
  私が大学受験生の頃には、東大のC日程で小論文と2教科のみというものがあ
りました。この場合2教科なんておまけです。
  では、小論文でどうやって合格させるんだ、と言うのも

  1. 受験生の相対的優劣を決める試験だから、基準設定に意味はない。
  2. 試験を採点する人。たぶん、東大の先生達でしょう。
  3. 小論文は残っているので他の先生も検証は出来るはず。
     そうでなくても、欲しい学生を判断するための試験であり、合格させた
     学生を自分の大学で責任を取るという試験なのだから、結果にとやかく
     言われる筋合いもない。

ということで筋は通っています。

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  では、技能検定と全国検定について、この3つの基準で考えてみます。

  技能検定と全国検定を試験方法の視点で見ると、大きな違いは、技能検定が
マークシート主体で、全国検定が面接主体ということです。
  これがそれぞれの試験を特徴づけていますし、それぞれの強みと弱みにも関
係してきます。
  ただ、技能検定の2級と1級は実技がありますので、全国検定とちょっと似て
きますので、ここでは3級以下(および準)について考えます。

  まずは、筆記試験が中心の技能検定を考えます。

1. 何を基準にするのか?

○試験範囲となる単語はホームページ上で公開されている。
○また、単語の表現方法は協会発行の書籍で確認することができる。
○例文なども協会発行の対策本があるので、ある程度の基準は示されている。

2. その基準に到達しているかをどう判断するのか?

○試験はマークシート。答えはどれを選ぶかだけなので、誰が見ても曖昧性は
  ない。

3. 判断の正当性を確認できるか?

○回答用紙が残るので、後から検証可能。
○試験の妥当性も、試験問題の映像があるので、検証可能。

      *  *  *

  技能検定はマークシートのみの試験なので、その時点で、2と3は問題なくな
ります。
  一番の弱点は1ですが、「手話の技能のみ」として、単語や構文のみに絞っ
たところがうまいところで、このことにより問題をほぼ解消しています。

  もちろん、単語や構文だけが手話の技能なのか? という疑問もあり得ます。
  が、技能協会は「測定できる範囲の技能のみを評価する」という姿勢をとっ
ているので、この問題をうまく回避しています。
  つまり、「手話としては色々な要素があるよ、でも評価できないことは我々
もタッチしないよ、だから、『技能』検定なんだよ」というわけです。

  筋がビシッと通っています。

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では、全国検定はどうでしょうか?

1. 何を基準にするのか?

○試験範囲は単語数だけは示されてされているが詳細は不明。
○単語の種類として、「家族や仕事」「日常生活を説明できる程度」といった
  「範囲」は示されている。
  しかし、その具体的な表現は非公表。

2. その基準に到達しているかをどう判断するのか?

○試験は複数の試験官の合議制。試験官は研修を受けて、基準に到達している
  かを判断する能力を習得していることになっている。
○カメラで受験時の手話表現の記録を残すので、後からの検証は可能。

3. 判断の正当性を確認できるか?

○研修センターが試験官に示した基準の詳細がわからないので、なんとも言え
  ません。

      *  *  *

  全国検定の場合、2はなんとかなりそうですが、1はボロボロです。
2も、もし試験官の研修が十分でないとすると話になりません。そうでないこ
とを祈るのみです。

  問題は、これは研修センターが悪いと言うよりも、コミュニケーションとい
う点を試験の対象にしたことにあります。本質的に、試験が成り立たないと私
は考えています。

  コミュニケーションをどうやって測定するかについて、誰もが納得できる基
準を設けない限り、出てくる結果の妥当性は検証できません。
  そして、誰もが納得できる基準は作りようがないと思うので「コミュニケー
ションを試験する」と言った時点で、全国検定は破綻していると思います。

  ですから、もし「あの人は美人だから合格した」「試験官がいじわるだから
不合格になった」というクレームがあったしても、全国検定の場合は満足な説
明が戻ってくるかは怪しいものがあります。
  なぜなら、基準が曖昧です。
  それに以前の語ろうかでお伝えしたように、試験官の判定にバラツキがある
可能性もあります。

  これが技能検定なら「そんなことあるわけないでしょ。ほら、あなたの回答
はこれ。ね、間違っているでしょ」と示すことが出来ます。

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  ならば、手話の試験は技能検定のような方法でOKなの? という質問には、
ちょっと待て、となります。

  なぜなら、皆さんもご存じの通り、手話は手や顔などを駆使し、独自の構文
を持ち、ろうの文化(私は世界観という方がしっくりきますが)を背景に持つ言
語です。
  これが、単なる単語数のマークシートで測定できるとは思えません。

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  では、全国検定をまともな試験にするためにはどうしたらいいのか。

  まずは基準作りが必要です。そのためには、コミュニケーションとはどんな
ことなのかを定義する必要があります。

  でも、それは難しいと思います。

  そもそもコミュニケーションがとれるというのはどういうことなのか? 話が
通じること? 気持ちが分かること?
  手話を使わなくても、言いたいことが表情だけでわかることもありますし、
逆に他人の気持ちはどんな手段でも理解できないことがあります。

  となると、客観的に測定できる現象について「○○ができたらコミュニケー
ションがとれた」とみなすしかないと思います。
  そういう方法ならいくつか考えられます。以下に例を挙げます。

a. 規定例文方式

  使用する単語数や構文をあらかじめ公開しておき、その組み合わせで作られ
るやりとりが理解できれば合格とする。

b. タスク方式

  「お店で店員さんにキャベツを売っている場所を聞き出すこと」「写真の現
像を頼み、4つめは引き延ばしてもらうことを伝えること」といった目的を示し
それが達成できれば合格とする

c. ロールプレイ方式

  受験生に役割を与えておき、想定される答えを全て考えておく。想定回答に
入れば合格とする。
  例えば、受験生には「あなたは30歳、歯科医の受付」とだけ伝えておき、試
験官が患者役になり、問いかけに対する答え(保険証はお持ちですか?など)を
試験する。
  回答は事前に想定されるものを書き出しておき、それに一致すれば合格とす
る。

  頭をひねれば他にも試験方法は考えられるでしょう。

  もちろん、方法により測定できることに得意不得意はあります。初級程度な
らa方式がやりやすいでしょう。でも、コミュニケーションの持つ話題の広が
りということはあまり測定できません。c方式はなかなか面白いのですが回答
例を作るのは大変でしょう。分野も限られます。b方式は上級試験でも通用し
そうですが、試験官のレベルが揃えられるか? いう問題があります。

  とにかく、大事なことは、試験なのだから、基準が設定できることだと考え
ます。合格ラインが設定できなければ、試験として成り立ちませんので。
  そして、基準が出来れば、合否判定ができて、あとから検証を行えます。
マークシートでなくてもビデオで録画すればいいです。
  基準さえしっかりしていれば、試験官により多少ばらついても、合議制にす
るなどの工夫により、偏見の除去はある程度可能です。(これは現行の全国検
定でも実施されていますが。)

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  でも、ここまで考えてくると、「そこまでして、試験をやりたいのか?」と
も思います。

  試験は何のために行うのでしょう?

  技能検定のように、閉じた世界で理屈の通った試験を行う代わりに、範囲外
のことは無視するという姿勢もアリでしょう。
  試験なんて、何の役にも立たないとして、受験しない姿勢もアリでしょう。
  どんな試験でも、力試しとして受けてみようという姿勢もアリでしょう。

  昔から言われることに「知能テストの点数は、知能テストでどれだけ点数が
取れるかを示しているに過ぎない」という格言があります。試験を受けるとき
にはそれぐらいの割り切りが必要だと思います。

  が、そこまでの心境を一般世間の人に求めるのも酷だと思います。ですから
私は全国検定はお薦めしません。もし、試験を受けたいのであれば、狭い範囲
ながらも理屈では筋が通っている技能検定をお薦めします。

  ということで、本稿で最初に示した「どうすれば全国検定がまともな試験に
なるか?」という質問に対する、私の回答は「本質的にコミュニケーションの
試験は難しい、いや、できないと思うので、どうやってもまともな試験にはな
らない。ちょっとトリックを使えば、ある程度は試験できるかもしれないが、
私なら、そんな事はわざわざやらない」です。

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  では、次回の語ろうかをお楽しみに。

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