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             _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』   _/_/
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No. 88                                              2002年11月27日発行
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

  皆さん、こんにちは。
  先週は突然のお休みにしてしまってすみません。今週は、先々週の続きで、
ナチュラルアプローチ(以下、NAと省略)の2回目です。まとめと、私のNAに対
する感想で締めくくります。

  元ネタになっている参考文献を再掲しておきます。

    日本語教育に生かす第二言語習得研究
      迫田久美子 著 / アルク刊 / 2800円+税
    http://shopping.yahoo.co.jp/shop?d=jb&id=30934893

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まずは簡単に前回のおさらいをしておきます。

参考文献によると、NAのポイントは次の6つだそうです。

  1. 学習内容が理解可能である。
  2. 学習内容が学習者にとって関連があり、興味深い。
  3. 文法的に配列されていない。
  4. 学習者に十分な量の言語情報を与える。
  5. 情意フィルターが下がっている。
  6. コミュニケーションのための会話のストラテジーを与える。

  1と2と4は当たり前のように思います。興味もなく、理解が難しいものを勉
強しようとしても、うまくいくはずがありません。4は中身が充実していると
言い替えていいと思います。勉強するのですから、中身がスカスカでは意味が
ありません。
  5と6は見慣れない単語が使われていますが、「その1」を読んでもらえばわ
かると思います。まず、情意フィルターというのは、受講生の気分、特にプ
レッシャーのような気持ちのことです。「情意フィルターが高い」というのは
プレッシャーが強くて、とても緊張しているような状態を示します。逆に「情
意フィルターが低い」というのは、リラックスしているような状態です。5番
の項目が言っていることは、受講生はリラックスしていて、気分良く授業に集
中できるような状態である、ということを言っています。そりゃ、そういう状
態なら、手話に限らず、どんな勉強でも身が入るでしょう。
  もう一つ、6番目の方の「ストラテジー」ですが、これも「その1」で簡単に
説明したもので、理解段階、発話初期段階、発話現出段階のことです。すごく
簡単に要約してしまえば、手話の会話練習をする時に、最初は簡単に、徐々に
難しくしている、ということです。(簡単に要約しすぎたような気もしますが
気になる人は、参考文献などを読んでください。)どんな会話が簡単で、何を
どうすると難しいのかという点が気になりますが、総体的には当然のことだと
思います。

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  さて、NAで気をつける点はわかりました。では、これができれば手話は必ず
身につくのでしょうか?

  まず、私は率直な感想として「そりゃ、これだけの前提がお膳立てできれば
手話も身につくでしょうけど、普通、お膳立てできないでしょ」と思います。

  一番引っかかるのは、情意フィルターの話。受講生が緊張しないなんてまず
無理。これから未知の言語を習得しようという人に、未知の言語のみでしか話
しかけない講義をしようというのですから、心臓がドキドキバクバクするのは
当たり前です。適度な緊張なら良い、という反論もあるでしょうけど、受講生
の緊張度合いを操作できる場合なんて、そうあるものでもありません。皆さん
も学校で過ごした時のことを思い出せば、すぐにわかると思います。よっぽど
先生と生徒が気心が知れている時で、しかも講義の内容もある程度知れている
ような場合でないと、気持ちのコントロールなんてものは、夢のまた夢です。
私の数少ない教育実習を振り返ってみても、緊張させれば、際限なくガチガチ
になり、手をゆるめればなめられ、睡眠学習する生徒がゴロゴロ出てきます。
情意フィルターを下げる? そんなことが簡単にできるなら、教師は苦労しませ
んって。

  それから、学習内容が理解可能である、という前提。これも難しいです。理
解の程度や過程は、人により、それぞれ。興味のわきそうな教材は事前準備な
どでなんとかできるとしても、それを理解させられるかどうかは、先生も腕だ
けではなく、生徒の資質にもよると思います。そして、生徒により教え方は変
えた方がいい場合もあります。というか、その方が普通です。ですから、NAを
実践するとすれば、受講生の人数は絞り、しかも、学習傾向が似ている人を事
前に人選して、それにあわせた指導方法が必要になるはずです。

 そんなことは、可能でしょうか?

  NAを実践できる所というのは、すごく限られると思います。例えばNAを精力
的に導入してきた国立リハビリテーションセンターは、その数少ない場所のひ
とつでしょう。逆に、普通の手話サークルでは、NAを使うことなんてとうてい
無理だと思います。

  教育って、性に合う合わないとか、根性論になったりするのですが、そうい
う議論を避けたとしても、NAの前提条件は相当条件が厳しいです。普通、手話
の勉強を始めた人は、しばらくやってみれば「あぁ、手話ってなんて難しいん
だろう」と思う場合がほとんどでしょう。NAの前提条件を厳格に適用するなら
この段階で、かなりの人が不適格です。私は、かなり使い方が難しい教育方法
であると感じます。

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  もっと違う意見を見ておきましょう。

  参考文献によると、NAの元になったモニターモデルについて、次のような利
点と欠点をあげています。

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  意義:
    わかりやすい考え方を基盤にしており、理論だけでなく、言語教育(NA)
    にも発展させた。

  問題点:
    習得と学習の区別の基準が曖昧で、学習が習得に影響しないとする考え
    方に対する反論が大きく、入力仮説のインプットの具体性が不明である。
    また、なぜ理解可能なインプットが習得に結びつくのかも不明である。
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というわけで、教育学上でも、万能とは思われていないようです。

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  以上、NAを批判的に見てきましたが、では、どんな他にどんな方法があるの
でしょうか? 参考文献では、文化変容モデル、普遍文法理論、有標性差異仮説
コンペディション・モデル、ファンクショナリスト・モデル、多次元モデル、
コネクショニスト・モデルが紹介されています。文献によれば、これらは最初
の2つと、残りの5つに分かれます。そして、最初の2つは理屈だけで、証明が
ほぼ不可能だそうです。私は普遍文法理論しか知らないのですが、これはすべ
ての言語は1つの文法をちょっと変えたものだという理論です。英語圏の人ら
しいかなり無茶な理屈だと私は思っています。残りの理論については、私はよ
くわからないのですが、参考文献を読む限り、NAの理解可能なインプットをど
うするかという主観的な判断を要する問題点があるようです。

  そういうわけで、他の手法も五十歩百歩のようです。歴史的に長いので、NA
に一日の長があるような感じがしますが、今後は別の手法が台頭してくるかも
しれませんね。

  それと私が重要だと思う点は、NAは上記の説明で終わりではなくて、これが
基盤、スタートなんです。このあと、誤り訂正とか、気がつかせる方法とか、
いかにして情意フィルターを下げるかってことが色々と研究されています。で
すから、単に「ろう者が手話だけで熱心な学習者に教えれば、NA」というわけ
ではありませんし、そう簡単にNAを実践できるわけでもありません。理想的な
NAを実現できればそれに越したことはないのでしょうけど、そうでなければNA
も効果を発揮できないと思います。

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  タイトルが「ナチュラルアプローチの功罪」となっていることもあるので、
最後に手話におけるNAの全般的な利点と欠点をまとめておきます。

  利点は、手話の教育に新風を吹き込んだと言うことでしょう。言葉の勉強と
いうと、教科書があって、文法を覚えて、正しい言葉の使い方を身につける、
そんな方法が主流です。私の知る限り、手話講習会もほとんど同じで、テキス
トがあって、それをみんなで復唱しながら指文字や単語練習から始まり、型ど
おりの会話練習をしています。それは、当たり障りなく、とてもごく普通な方
法だと思いますが、別の方法を提案したという点で、NAというものが知られた
意義は大きいと思います。

  欠点は、変に誤解した人をたくさん作ってしまったことだと思います。「NA
で教えてます」という人のかなり部分が「単に手話だけで教えているから」と
いう感じがします。実際、NAというものは、それだけではなくて、もっと色々
な理屈があったり、気をつけなければいけないことがあるのは、これまで述べ
てきたとおりです。参考文献の発行元である、ALCの日本語センターのQ&Aにこ
んな説明がありました。

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  http://www.alc.co.jp/jpn/com/nndm/category6.html

 ナチュラル・メソッドとナチュラル・アプローチはどちらも「ナチュラル」
  という名称があるため紛らわしいのですが、異なる教授法です。 
 ナチュラル・メソッドは文法翻訳法に対する批判から生まれたもので、外
  国語は幼児が母語を習得するのと同じ方法で学ぶのが最も良いと考える立
  場の教授法の総称です。目標言語を使って、会話の練習を行うのでナチュ
  ラル・メソッドと呼ばれています。開発者の代表として、グアン法で有名
  なフランスのグアン、ベルリッツ・メソッドを開発したドイツのベルリッ
  ツなどがあげられます。 
   他方、ナチュラル・アプローチは、やはり幼児の母語習得のプロセスの
  観察から考案された教授法ですが、学習者に大量の理解できる目標言語を
  聴かせ、まず理解活動から始まります。したがって発話を強要しません。
  この点がナチュラル・メソッドと大きく違う点です。考案者は、テレルと
  クラッシェンです。
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  どちらがいいという訳でもないと思いますが、手話におけるNAは、一般的に
前者のナチュラルメソッドのことを示していることが多いと思います。厳密に
分けると、ナチュラルアプローチは後者の発話を強要しないという特徴がある
ということです。

  手話のナチュラルアプローチの解説文は、ALCに言わせれば、両方ごちゃ混
ぜにしていると言えそうです。まぁ、結果が良ければ、定義なんてどうでもい
いのです。

私がこの解説を読んで思ったのは、教育方法には、それぞれ主義主張理屈があ
るはずで、それを理解しないまま、方法論を形式だけ取り入れてもうまくいか
ないだろうな、ということです。手話におけるNAは、そのあたりに違和感があ
ります。なぜ、手話だけを使って手話を教えればいいのか、その理屈を理解し
ないと、単に受講生のストレスだ溜まるばっかりで、それに対して教師側も対
策がわからずに、結局、破綻するだけだと思います。主義主張理屈が理解でき
ていれば、手話だけで教えるというような、目先のことにとらわれることもな
いでしょうし、解決策はわかるはずです。少なくとも信念を持って、教師も生
徒も学習に取り組めるはずです。

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  最後に一言。

  私はスポーツと呼ばれるものはほとんどやらないのですが、勉強することは
スポーツと同じぐらい楽しいことです。履歴書に「スキー」や「卓球」と書く
ように、「理科」とか「歴史」とか「語学」と書いてもいいぐらい楽しいこと
だと思います。昔、ヴィトゲンシュタインという哲学者は、こんなことを言っ
たそうです。

  「言葉の拡張は自らの世界の拡張である。」

  言葉を学習することは、とても楽しいことです。皆さんも、手話を通して、
世界を拡張して、その面白さを味わってみてください。

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  年内の「語ろうか」は、あと1本の配信を予定しています。内容は、たぶん
お便り紹介と耳寄り情報です。時期は12月中旬以降になると思います。

  それでは次回をお楽しみに。

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