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No. 68                                              2002年 1月 9日発行
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ミ

  皆さん、こんにちは。

  お正月休みも終わり、仕事も始まりました。皆さん、体は本調子に戻りまし
たか?

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  昨年、完結できなかったろう運動のシリーズの最終回として、参政権の問題
を取り上げます。
  今回のテーマには、元ネタがあります。興味のある方は、以下の参考文献を
ご覧下さい。

参考文献
  [1] 手話通訳問題研究 No.77 (2001 Nov.) 全国手話通訳問題研究会
  [2] 障害を持つ人々と参政権 井上英夫編 法律文化社

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  参政権で考えなければならないのは2つの面があって、選挙の投票と立候補
する時の問題です。

  聴覚障害者の場合、選挙自体は問題ないと言えます。参考文献[2]では、視
覚障害者や麻痺を持つ人がどうやって投票用紙に名前を書くか、という問題が
たくさん取り上げられていますが、この点については聴覚障害者は全然問題に
なりません。では、何が問題になるかというと、政見放送です。

  政見放送は、あまり私にとっても馴染みがあるものではないのですが、選挙
の時にはNHKが通常の番組を潰してでも放送しています。候補者が自分の政見
を述べるもので、投票の参考になるはずのものです。
  でも、あんまり見ている人はいませんよね。私は、昔の選挙で小さな政党が
たくさん出てきた時には、おかまの東郷けんとかビデオにとってでも見たもの
ですが、最近はそういう面白さにも欠けるので、個人的には全然見ていないの
ですが、この政見放送が聴覚障害者にとって、すごい問題があります。それは
何の役にも立たない、ということです。

  選挙の時には、立候補者の考え方を聞くなどして何らかの材料がないと投票
ができないわけですが、日本の選挙の歴史をひもとくと、1948年に立ち会い演
説会というものが始まったそうです。これは立候補者を一堂に集め、それぞれ
の政見を話すことによって、有権者に訴える場所ということで始まったそうで
す。そして、1967年、東京の中野区での国政選挙で手話通訳がつけられます。
これは、東京都聴力障害者協会が選挙管理委員会に要望した結果だそうです。
その後、大阪などでも立ち会い演説会に手話通訳がつき、1968年には基本的に
全ての立ち会い演説会に手話通訳が付くことになります。
  ただ、参考文献[1]によれば、自治省が1971年5月31日に、立ち会い演説会に
手話通訳を公費でつける事を通達したのですが、具体的な予算の裏付けは地域
に任される状態になり、全国どこでも手話通訳がつくというわけではなかった
ようです。

  そして事件が起きます。1983年に公職選挙法が改正され、立ち会い演説会が
廃止され、政見放送に移行します。しかし、この政見放送には手話通訳がつか
なかったのです。
  政見放送自体は、1969年から始まっていましたが、1980年代はほとんどの家
庭にテレビが普及したと言うことなのでしょう。候補者を同じ場所に集める時
間の都合や手間を考えると、テレビを介した政見放送への移行自体は時代の流
れだと思いますが、聴覚障害者にとっては、時代が逆戻りしてしまいます。

  なぜ、政見放送に手話通訳がつかなかったのか? これには政見放送特有の縛
りがあるためです。政見放送は公平・正確であることが求められます。ですか
ら、候補者に与えられる時間も決まっていますし、自分の政見も日本語で言わ
なければなりません。そして、それを放送するNHKは、「そのまま」放送しな
ければならないという決まりがあります。「そのまま」とは、どういうことで
しょうか? これは、NHKが勝手に字幕をつけたりしてはいけないと言うことで
す。そして、公職選挙法の中に手話通訳に対する文言は全く盛り込まれません
でした。

  選挙、つまり法曹界での公正さとは、こういうことかと思わされる話です。
日本語で表現すれば、それを文字にすることは1対1対応がつくので公正にでき
る。でも、それを映像や音楽に変換するのは、そこに色々な解釈の余地が生ま
れるからダメ。公正であることを維持するのは、そりゃ大変なことですが、法
律としては、日本語に縛ることで公正という基準を設けたのは、当時としては
仕方がなかったのかなと思います。

  参考文献[1]によれば、1983年とは、1970年から始まった手話奉仕員養成事
業開始から10年程度立っており、全国的に手話通訳者が登場していた時期とも
重なるそうです。そう言う時に、政見放送に手話がつかないというのは、聴覚
障害者、手話通訳者など関係者にとって忸怩たるものがあったと思われます。

  その後、全日ろう連や全通研は、政見放送に手話通訳をつけられるように運
動を続けていましたが、それが変わるのは1986年の「政見放送研究会」の報告
書がきっかけです。

  運の良いことに、昔、この報告書の骨子(一部省略版)ですが、打ち込んだも
のがあるので、今回はこれを引用します。

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(骨子)
政見放送への手話通訳の導入について 


対象選挙   参議院比例代表選挙 
手話通訳者  厚生大臣公認手話通訳士試験に合格した手話通訳士 
       (現在六〇六人 うち東京都一四五人) 
確保主体   名簿届出政党等・任意制 
経費     政見放送の公営経費で対応 
画面処理   並立方式を採用 
利便の提供  中央選挙管理会及びNHKにおける手話通訳士に関する情報提供 


政見放送研究会報告書 

  当研究会は、昭和六十一年十二月に発足して以来、政見放送全般への手話通
訳等の導入及び聴覚・言語に障害のある候補者の政見放送のあり方について、
調査、研究を行い、昭和六十二年二月には、聴覚・言語に障害のある候補者の
政見放送のあり方等について結論を得て中間報告を行ったところである。

  政見放送は候補者、政党等の政見を伝える重要な機会であるため基本的には
できるだけ多くの方にその内容が伝わるようにすることが望ましい。同時に極
めて限られた期間内に多くの候補者、政党等について公正に製作・実施しなけ
ればならないためすべての候補者、政党等に対し公平な扱いが特に厳格に要請
されるものでもある。

  したがって、政見放送全般への手話通訳等の導入の問題についてはそうした
政見放送の性格から検討を要すべき製作上、技術上の課題等が少なからずある
ものの、聴覚等に障害のある方にできるだけ広く各候補者、政党等の政見につ
いて知ってもらうことは参政権の行使において重要なことであるため、当研究
会では中間報告以後も引き続き研究会を開催し、検討を重ね、独自に政見放送
に手話通訳を導入した試作品を作るなど課題の解決に努めてきたところであ
る。

  またその間、平成元年度には手話通訳認定制度が創設され、平成五年度には
同制度による手話通訳士の数も地域的な偏在がみられるものの全国的には
六〇〇人を越える等政見放送に手話通訳を導入するための諸条件も徐々に整備
されてきたところである。

  さらに、昨年三月には政府においていわゆる「障害者対策に関する新長期計
画」が策定されたところである。

  そこで今回当研究会としては、こうした状況を踏まえこれまでの議論を取り
まとめることとし、政見放送全般への手話通訳等の導入については解決すべき
幾多の課題はあるものの、現段階でまず可能なものから導入していくべきであ
るとの最終的な結論を得たので、下記の通り報告するものとする。


                            記 

  政見放送への手話通訳の導入については、参議院比例代表選挙の政見放送に
おいて、名簿届出政党等が厚生大臣公認の手話通訳士試験に合格した手話通訳
士を自らの手話通訳者として政見を通訳させることができるものとする。この
場合の手話通訳の方法はいわゆる並立制とし、その経費は公営経費でまかなわ
れるものとする。また、中央選挙管理会と日本放送協会は、名簿届出政党等に
対し手話通訳士に関する情報を提供することが望ましい。

  その他の選挙における政見放送への手話通訳等の導入は、手話通訳士の地域
的偏在、放送事業者側の体制等から当面は困難であるが、将来的な課題である
と考える。

  なお、衆議院商船局選挙の政見放送については、いわゆる持ち込み方式が新
たに認められることから、候補者届出政党はその中で手話通訳を導入すること
も可能となっている。

    平成六年六月二十日 
        政見放送研究会 

   座長 堀部  政男 
   委員 秋田   周 
   委員 秋山 隆志郎 
   委員 磯部   力 
   委員 板山  賢治 
   委員 今井  秀雄 
   委員 貞広  邦彦 

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(参考) 
   政見放送に手話通訳等を導入するに当たっての問題点とそれへの対応 

- 手話通訳について 

  手話通訳者については、その性別、年齢、著名度などの属性や通訳技術によ
り各候補者、政党等の間に不公平を生じるのではないかとの問題がある。 
  これについては、名簿届出政党等が独自に手話通訳者を確保することとすれ
ば、手話通訳を付けるか否か、手話通訳を付ける場合には誰に頼むのかを政党
等が自ら判断し、決めるのであるから、その選択の責任は政党等が負うことに
なり、その点での名簿届出政党間の不公平はないと考えられる。 
  また仮に誤訳等があった場合でも、その責任はその通訳者を選んだ名簿届出
政党等が負うことになる。 
  さらに手話通訳できる者の範囲を厚生大臣公認の試験に合格した手話通訳士
に限定すれば、一定レベルの均質な手話通訳が期待できることから、不公平の
問題は生じないのではないかと考られる。 
  一方、手話通訳を制度化する場合には政見放送を通訳できる技術力を持った
手話通訳者の絶対数を確保しておかなければならないという問題がある。即ち
手話通訳を付けて政見を放送しようとする政党等がかなり多くなる場合が十分
あり得ること、また政見放送自体が選挙期日の公示日(告示日)前後の極めて限
られた短い期間での製作とならざるを得ないため政党等が短期間で手話通訳者
を確保し、政見内容の打合せ等をしなければならないこと等から、政見放送へ
の手話通訳の導入を制度化するためにはその地域に相当数の手話通訳士が現に
存在することが必要である。
  現在公認の手話通訳士は全国で六〇六人いるものの、大都市圏に多く、地域
的に著しく偏在している。都道府県別に見ると一桁しかいないところが三二団
体と半数を上回っており、特に三人未満のところが一六団体と全体の約三分の
一もある。しかし、東京都については一四五人(二三・九%)、神奈川、埼玉、
千葉を含めると二五六人でこの地域だけで全体の四二・二%を占めている。
  したがって、東京にある日本放送協会の本部で政見放送の収録を行う参議院
比例代表選挙については上記の数の問題を十分クリアーできることになる。 
  なお、名簿届出政党等が手話通訳士を確保するについては中央選挙管理会や
日本放送協会は名簿届出政党等への利便提供として手話通訳士に関する情報を
提供することが望ましい。 

- 手話について

  手話は、一般に要約、意訳を伴うため、現行の公職選挙法一五〇条一項の「
政見を録音し又は録画し、これをそのまま放送しなければならない」という現
定に抵触するのではないかという問題がある。
  これについては名簿届出政党等が手話通訳士を自らの責任で確保するとすれ
ば、政見の放送と同時に行われる手話は、当該名簿届出政党等の政見そのもの
であるとも考えられ、少なくともその政見に含まれると解釈し得るものであり
公選法一五〇条の規定に抵触することはないと考えられる。 
  また手話の語彙数が必ずしもまだ十分でないと考えられることから、政見放
送の内容を十分訳することが可能かとの問題が生じるが、これについては政見
放送の手話通訳を行うこととなる者の研修を行うと共に政見放送によく使用さ
れる用語の手話化及び標準化を手話通訳に関する関係機関等にお願いしていく
ことによりクリアーできるのではないかと考えられる。なお、現在国立身体障
害者リハビリテーションセンターにおいては試験に合格した手話通訳士に対す
る専門研修会が実施されているところである。 

- 放送事業者について

  政見放送に手話通訳を導入することについては、それを収録する側の放送事
業者の協力が必要であるが、各放送事業者(日本放送協会、一般放送事業者)の
体制(人員、設備等)に鑑みると全国すべての放送局、放送事業者がそれに対応
できるという状況にはないと考えられる。
  しかし、参議院比例代表選挙については東京にある日本放送協会の本部で政
見放送の収録を一括して行うので体制の面でも対応できるのではないかと考え
られる。 

- 経費負担について 

  手話通訳者に対する報酬や放送事業者の設備などの手話通訳の導入にともな
い新たな経費が必要になるが、手話通訳が政見放送に含まれるということであ
れば、政見放送の一部として公費経営で対応することができると考えられる。

- 画面処理について 

  手話通訳をテレビ画面で処理する場合、現在ワイプ方式と並立方式の二通り
が考えられるが、手話通訳の画面処理に要する期間や画面の見やすさに関する
映像面に鑑みるとワイプ方式よりも並立方式の方が適していると考えられる。

- その他の選挙への導入について 

  参議院比例代表選挙以外の選挙の政見放送への手話通訳の導入については、
現在の状況においては以上述べたようないくつかの解決しなければならない課
題があるため困難と考えられる。
  なお、今回の政治改革による公職選挙法の改正により衆議院の小選挙区選挙
においては候補者届出政党に対しいわゆる持ち込み方式の政見放送が認められ
たことから、政党が製作する政見放送においては手話通訳の導入が可能になっ
たところである。

- 字幕スーパーの導入について 

  政見放送への字幕スーパーの導入については、主に以下のような問題点があ
ると考えられる。
  現在の水準では、わずか一〜二日間で全体の製作を終え、放送を始めなけれ
ばならない政見放送においては字幕希望者が多くなると対応が極めて困難に
なってしまうこと
  字の大きさや画面に表示する位置等を考えると政見放送の時間内に字幕で伝
えることができる文字数はかなり限られるため字幕スーパーの内容自体も限定
されたものになってしまうこと
  原稿なしの同時通訳で字幕スーパーを入れることは、入れたもののチェック
ができず無理であること
  原稿を前もって出してもらう場合でも、その原稿が一般の政見用のものなら
字幕スーパーでは字数等からそれを要約する必要があるが、そうした要約を選
挙管理委員会や放送事業者が自ら行うことは選挙管理の公正の確保の観点から
できないこと
  また原稿が字幕用のものでも、それが政見内容と一致しているという保障は
なく、仮に内容的に一致していても候補者等が現実に話している内容と字幕
スーパーの内容とを同一画面上で一致させることはかなり難しいこと

  これらのことから、政見放送への字幕スーパーの導入については現状では困
難と考えられる。 

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  引用が多くなったので、続きは来週にします。

  では、また来週。

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