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    メールマガジン 「語ろうか、手話について」

No. 57 Rev.1                                        2002年 6月 5日発行
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  皆さん、こんにちは。
  ワールドカップは、いきなりの大波乱から始まりましたが、皆さん、いかが
お過ごしでしょうか。

  先週の前口上で、「主人公が聴覚障害だということが最後まで伏せられてい
て、それがどんでん返しとなっている映画」について、情報求む、と書いたと
ころ、メールと掲示板でいくつかの映画を教えてもらいました。よしみさん、
Tsukuoさん、Sandyさん、ありがとうございます。

  不思議なことに3人とも違う映画のタイトルを教えてくれたので、あとは推
測するしかありません。日聴紙の投稿からして、2〜3ヶ月ぐらい前の映画だと
言うことと、主人公が女性に人気のある俳優だとのことで、たぶん、Sandyさ
んが教えてくれた映画のことだと思います。それで、その映画の解説記事を読
んでみたのですが、なるほど、たぶん、これ、と思いました。Sandyさん曰く
「知らずに観た方がいいと思います。」とのことなので、ネタバレして興ざめ
る人がいると困りますので、ここでは映画のタイトルは伏せておきます。  気
になる方は、今回のメルマガの最後に、その映画のタイトルを書きますので、
興味のある方はそちらをご覧下さい。

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  今回は、本編がちょっと短いのでもう一つ。

  携帯電話会社のJ-Phoneが東京は渋谷に、手話ができる店員を常に在中させ
ている店があります。聴覚障害者に対応できるというのが売りで、今まで実験
店という扱いで、春ぐらいに見直しがあると言うことでした。が、先月、この
店の続投が決まったそうです。その記事自体は、すでに消えてしまっているの
で、昔の紹介記事が朝日新聞に残っていたので、そのURLを書いておきます。

http://www3.asahi.com/opendoors/span/pkon/handicap/handicap20020515.html

  今後、ずっと、この店が続くとは決まっていないようですが、好評ならば、
同じような店を増やすことも検討されているそうです。逆に、お金にならなけ
ればなくなってしまうかもしれませんが。とりあえず、営利的に手話ができる
ことがうまくいっていて、良かったですねぇ。

  振り返れば携帯電話も面白い運命をたどっています。昔は、こんなに文字通
信が多くなるとは想像できませんでした。今では、音声よりも文字通信の方が
儲かるので、各電話会社はメール機能に力を入れているような状況です。
 J-Phoneは、会社発足当時から、ペン入力の端末を開発したりして、聴覚障害
者向けのサービスに力を入れていました。というか、結果的に聴覚障害者に使
えるものになったというのが正しい言い方でしょう。ミニファックスやECOTな
ど、聴覚障害者専用のサービスは数々ありましたが、今のところ生き残ってい
るのは、専門のサービスではないようです。やっぱり、聴覚障害者専門になる
と採算が取れないのでしょうね。手話通訳が生き残る道を考えると、何か暗示
的なものを感じます。

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  この号はNo.57の再配信と言うことになっていますが「その2」の内容を増や
したため、内容が微妙にずれてきており、今回の内容には、実はNo.57の文章
は含まれていません。ナンバリングなんて、どうでもいいことだと思いますの
で、とりあえず、再配信の番号を付けていますが、気になる方は以下のURLで
前後関係をご確認下さい。なお、この原稿はまだ載せていませんが、1ヶ月以
内には更新する予定です。

  「語ろうか手話について」目的別索引
    http://www.rr.iij4u.or.jp/~tokudama/kataro/index2.html

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  先週までで、ようやく計算機で手話が扱えるように記号化までできたわけで
いよいよ解析になるところですが、その前に関連領域についてお話ししておき
ます。

  まずは、言語学です。両方とも言語を対象とし、両方をフラフラしている人
もいますし、論文を発表する所も重なっていたりしますから、何が違うのか、
外から見たらあまり区別が付かないと思います。でも、言語学を専攻している
人に自然言語処理の話をしても話が通じないときがあるから面倒なことです。
例えば、私は自然言語学屋なので、言語学の用語があまりわかりません。そん
なわけで、自然言語学と言語学の簡単な区別の方法を説明しておきます。

  一番ハッキリとしているのは、自然言語学は計算機を使うことで、言語学は
それほどでもないってことです。これが一番大きな違いで、自然言語学は計算
機を使うので、対象を広く均一にとらえることが大きな評価となります。例え
ば、言語学上の10個の難題があるとして、ある2人の研究者がそれを解決する
ソフトウェアを作ったとします。7個しか解決できないけど、その7つは完全に
解決できるソフトを作った人と、9つまで解決できるけど、その解決率は80%ぐ
らいというとき、自然言語処理学としては、後者の方が評価が高いです。でも
たぶん、言語学としては完全に7つ解決できる方が偉いと思われるでしょう。
そういう感覚や目的意識が、自然言語学と言語学では大きく違うように感じま
す。

  だから、自然言語学はワープロや仮名漢字変換や検索ソフトなど役に立つも
のを作ることに力点が置かれますが、言語学は、照応省略や袋小路文など、珍
しい言語現象をいかに一般的に説明できるかに力点が置かれるという違いがあ
るように思います。でも、何事も同じなんですが、両方に通じている人もいま
すから、絶対こうだとは言い切れませんけど。

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  もう一つ説明しておかなければならないのは音声言語処理でしょう。別の分
野から見たらほとんど同じような計算機を使って研究しているし、対象は言語
なので、時には自然言語処理と音声言語処理は、ひとくくりにされてしまうこ
とがあります。が、私には自然言語処理と音声言語処理は、双子や兄弟のよう
に近い関係にはありながら、別人であると感じます。自然言語処理が文字を中
心に処理するのに対して、音声言語処理は音を中心に処理するからです。

  音声処理の言語処理は、信号処理と呼ばれる分野を基盤としています。たぶ
ん原点は、電話のアナログ信号(だと思います。あんまり詳しくないんです。)
処理から発展したものだと思います。電話の信号とは、つまり音声です。音声
は時間軸上の周波数や振幅の組み合わせとして表現できます。
  高い声、低い声というものがありますね。人間の声は、空気の振動として伝
わり、耳に届きます。空気の振動のふるえ方の細かさで色々な声として聞こえ
ます。この振動は信号処理の立場からは、複数の周波数の組み合わせ、と見る
ことができます。10Hzといったヘルツの単位で表現されるものです。補聴器な
どで、この数値は聞き覚えがあるのではないでしょうか。音声言語処理では、
音声をフーリエやウェーブレットと呼ばれる技術によって、このような単純な
周波数の組み合わせに分解します。すると、音声が5Hzだの8Hzといった数値の
組み合わせで表現できるわけです。そうなると計算機で処理できるわけです。
(フーリエやウェーブレットも計算機の処理だと言われると、確かにそうなん
ですけど、それはおいといて。)

  この過程、見覚えがありませんか? そう、前回の「乗せる」に似ているんで
すね。「乗せる」では人間が判断して記号化してしましたが、音声信号処理で
は計算機により自動的に数値化、つまり記号化してしまうわけです。
  もっとも、まだいくつかの数値の組み合わせですから、ここから、どんな音
声なのかを判別するといったことをします。音声ですから、抑揚から感情を読
みとったりということもできるでしょう。

  寄り道して音声言語処理を解説してきた理由をいよいよお話ししましょう。
これを手話言語学に当てはめると、示唆的なものが見えるのです。

  手話の言語学が音韻論から始まり、今でも手の形やら位置、動きなどの類型
分類の研究が主流のようです。こういうレベルは、工学から見れば、形態素の
ような記号を扱っているとは言えず、もっと小さい音素の方がより近く感じま
す。前回、「乗せる」話を単語と文字の結びつきの面から説明しましたが、別
の見方をすれば、どのレベルを記号化するかという話でもあります。ハムノー
シスは明らかに手話の信号処理レベルですし、sIGNDEXは形態素まで抽象化し
て扱っていると見ることができます。これはそのまま、音声言語処理と自然言
語処理の言語に対する扱いの違いととることもできます。
  このようなわけで、自然言語のような記号処理より、もっと小さい信号を扱
う音声言語処理の方が、現在の手話学との親和性が高いようです。その結果、
今の手話言語学と音声言語処理学はお互いに得るものが大きいようです。

  一方、自然言語処理学から見ると、あまり今の手話言語学には興味がわきま
せん。私だけかもしれませんけど。例えば、手話の論文、最近送られてきた手
話学会の予稿集などを読んでいても、なかなか魂を揺さぶられるような面白さ
を感じることは少ないのです。これは今の手話の研究が悪いと批判しているわ
けではありません。手話の単語収集のようなフィールドワーク、単語の音韻分
析は当然の事ながら、絶対必要で、こつこつと積み重ねていかなければならな
い研究ではあります。ただ、こういう言語学の研究と工学との接点は音声言語
処理であり、自然言語処理はもうちょっと先のことを扱いたいんですね。疑問
形の時に眉を上げるかどうかというのは、私にとってはどうでもよくて、疑問
形という記号系列にしてからの話をしたいのですが、まだ先の話のようです。

  ただ、あんまりのんびりしていたら、こちらが年寄りになってしまうし、そ
れに言語学っていつまでも音韻分析にとどまっているべきではないとも思いま
す。そもそも、手話が言語であると証明することは、手や腕を使う手話という
表現が、ある語彙集合であり、そこから体系を構成することを示すことだった
はずです。それなのになかなか体系までは出てこない。一部の文法体系は示し
ていても、全体像がなかなか浮かび上がってきません。私は解析ができる程度
の文法が欲しいのですが、そこまでまとめあげようという人がいないのは残念
なことです。文法が出てくれば、手話も今の日本語の自然言語処理並に色々な
ことができると思うのですが、どなたかやってくれませんかねぇ。

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  次は、解析の話ですが、それは来週のお楽しみにしておきます。
  では、また来週。

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