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               メールマガジン 『語ろうか、手話について』

No. 54                                              2001年 7月18日発行
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  皆さん、こんにちは。

  今回の「語ろうか」は、過去に類を見ないほど真面目に福祉を語ります。な
んか、どこかでミスっているような気がしなくもないですが、その時は誰かか
らつっこみが入るだろうと思うので、今日は暴走して語ってみます。

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  2000年4月1日に介護保険が始まって1年ちょいが過ぎようとしています。今
まで福祉や家庭内の問題として処理されてきた介護を保険という資本主義的枠
組みに変更しようという世界にも類を見ない、この試みに対して、私なんかは
「エイプリルフールだよーん」と言って中断される妄想を抱いていたのですが
その後、粛々と制度は施行され、定着しつつあります。

  当初から、全通研にしても全日本ろうあ連盟にしても、介護保険への取り組
みはかなり熱心だったように感じます。それがどうにも私にはスッと飲み込め
ないものがありました。
  なぜなら、対象者があまりに少ないのに降ってくる情報がとても多い、それ
なのに中身がないからです。数年前から研究誌や講演のテーマなどでも介護保
険がよく取り上げられるのですが、その内容がどうも薄いのです。そもそも介
護保険の対象者となるのは60歳以上のお年寄りで、介護が必要な人です。聴覚
障害者の数が元々少ない上に、さらに寝たきりの人なんて、地域で探したらわ
ずか1人いるかどうか。最近のお年寄りは元気なこともありますし、サークル
関係だと元気な人しか会わないということもありますが、それにしたって、わ
ずかな数しかいません。そんなわずかな例をことさら取り上げる必要があるの
だろうか、という疑問を持っていました。

  タネを明かせば、介護保険が今後の福祉の命運を握っていたことを全通研も
全日ろう連も知っていたということです。両者とも大きな団体だから、迂闊な
ことは言えなかったということなんでしょうけど、最近になって、ようやく将
来像を提示するようになってきたので、今回はそんなことを含めて、介護保険
が手話通訳に与える影響を語ってみます。
  なお、今回の話には多分に予測が含まれますが、この予測は宝くじよりは当
たると思います。でも、外れる可能性もあるので、そのあたりの信頼性は皆さ
んでお考え下さい。

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  まず介護保険についておさらいしておきましょう。
  介護保険は、65歳以上の介護が必要な人に介護サービスを提供する仕組みで
す。日本国民は例外なく40歳以上になると3000円程度の掛け金を払い込み、そ
れを原資に介護保険を運用します。特別な場合に45歳から介護を受けられた
り、年齢や地域による掛け金の免除などもありますが、細かい話は市町村の広
報をご覧下さい。介護保険の実施団体は市町村ですので、住んでいるところに
より掛け金やサービスの違いがあります。

  保険とは言っても強制加入で、掛け捨てです。実体は税金のようなものです
が、厚生労働省曰く「税金ではない」そうです。ここらへんで、うまくごまか
されているような気がします。

  さて、65歳以上の人が介護を受けたいと思ったらどうすればいいでしょう? 

  まず市町村の介護保健担当窓口に申請を出します。そうすると、担当者が本
人や家族の所に来て、対象となる人がどんな状態なのかを調べて「要介護度」
というものを算出します。要介護度は、要介護5〜1、要支援、自立の7段階が
あります。自立となると、介護保険は使えません。はい、それまでよ、です。
後のレベルは要介護5が一番重く、要支援が一番軽くなっており、それぞれの
レベルにあわせた介護費用が支給されることになります。当然、要介護5は沢
山もらえて(現在だと月約36万円)、要支援だと微々たるもの(月約6万円)で
す。但し、これらは現金支給ではありません。介護サービスとして支給されま
す。
  そこで、次の段階として、ケアマネージャーと相談して、どんな介護サービ
スを受けるかを決めなければなりません。介護サービスには、ホームヘルプ
(ご飯を作ってもらうとか、トイレに行くのを手伝ってもらうとか)、訪問入
浴、短期間の施設入所、手すりをつけるなどの住宅改造、杖や車椅子などのレ
ンタルや購入があります。当然、要介護度が高いほど色々できます。受ける
サービスは「ケアプラン」という文書にまとめられ、それに基づいて介護サー
ビスを受けることになります。注意すべき点は、要介護5だから36万円分無料
で使えるのではなくて、料金の1割は個人負担になります。逆に言えば、要支
援や自立の人でもお金さえ出せば、色々な介護サービスを受けることができま
す。
  実際の介護保険の運用の現場では、色々例外があったりするのですが、ざっ
と見ているとこんなところです。あとは要介護度判定が半年ごとに更新される
ことを注意しておけばよいでしょう。

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  大まかな説明でもわかるとおり、かなり机上の論理というような制度です。
問題点もどんどん出てきています。例えば、1割の負担さえできないので介護
サービスが十分受けられないとか、今まで金額にして80万円以上のサービスを
受けていたので、それが維持できないとか、要介護判定が不当に低いとか、介
護サービスを提供してくれる団体も業者もいないとか。

  でも、厚生労働省も誰かをいじめたくてやっているわけではなく、国の将来
を考えて編み出した制度であり、なんとか持ちこたえさせようと必死に補強し
ていたりします。介護だけなら、こんな大げさな制度を作らなくてもいいんで
す。厚生労働省だって、あの財務省を説き伏せるのは避けたかったに違いあ
りません。それだけの覚悟をして、これだけ大きな、そして複雑きわまりない
制度を作った背景にはそれなりのわけがあります。(それにしても、この「厚
生労働省」という言い方はなんとかならないんですかね。明らかに元厚生省の
話なのに、労働省が巻き込まれているような感じがしてきます。)

  それが社会福祉基礎構造改革と呼ばれているものです。現在、厚生労働省に
おける福祉というものは、老人、児童、障害者の3つの柱から構成されていま
す。介護保険は老人対策でしたが、おそらく、これを足がかりにして福祉を1
本化し、無駄を省き効率的な仕組みを作りたいのではないかと思います。

  その社会福祉基礎構造改革の中身ですが、厚生労働省は4つの理念を掲げて
います。これらかなりおおざっぱに解説しながら、それが手話通訳にどのよう
に影響してくるのかを見ていきましょう。

1. 利用者の立場に立った社会福祉制度の構築
    「措置から選択へ」と言われているものです。厚生労働省曰く「従来の福
  祉はお仕着せのものだった。これからは利用者が自由に選択できることが必
  要だ」と言っています。例えば、現在の手話通訳派遣では、通訳者を指名す
  ることはできないわけです。それよりは、今日は病院で診察があるから女性
  の通訳者がいい、と思ったら女性を指名できるとか、さらには日本手話の通
  訳がいいとか、要約筆記にしてもらうとか、そういうふうに選べた方が良か
  ろうというわけです。
    でも、現状を見ればわかる通り、選べるほど充実していません。手話通訳
  者そのものが少ないのに、どうやって選択しろというのでしょうか? 措置制
  度はお仕着せではありましたが、それなりの強制力があります。手話通訳者
  の設置という面では我々にとっては都合の良いことがあります。現状の制度
  がなくなってしまったら、手話通訳者が減ることはあっても、増えることは
  ないのではないかという懸念があります。福祉予算を切りつめたいがための
  逃げ口上ではないかと思ってしまいます。

2. サービスの質の向上
    選択制度になることで、サービス提供者が競争し、質が良くなるというも
  のです。選択は同時に契約制度への移行を意味します。つまり、良くなけれ
  ば使わなければいいということです。これにより、良貨は悪貨を駆逐すると
  いうのが厚生労働量の言い分です。
    しかし、1でも述べたとおり、選択がないところに競争が発生するでしょ
  うか? 使わないという選択肢はあるにしても、それで困るのは結局利用者で
  あるろう者です。現状では、質が向上するための条件がそろっているとはと
  ても思えません。

3. 社会福祉事業の充実・活性化
    規制緩和を行い、福祉事業に民間の参入を促し、活性化させるというもの
  です。確かに現在の手話通訳は、規制により独占状態の側面を持っていま
  す。民間の手話通訳会社が参入してくれば、安く高品質な通訳サービスが提
  供されるかもしれません。この道筋はすでにつけられていて、昨年末に社会
  福祉事業法を社会福祉法に改正した際に、福祉事業として手話通訳を盛り込
  んでいます。
    そして、おそらく、福祉事業を民間に開放するという手順なのではないか
  と思われます。参考までに、法改正についての厚生労働省の文書をあげてお
  きます。
    http://www1.mhlw.go.jp/topics/sfukushi/tp0307-1_16.html
    ただ、これも2で述べたとおり、民間が参入してくれば、の話です。東京
  や大阪のような人口の多い地域ではそういうこともありえるでしょうけど、
  ろう者が数人しかいないような田舎にまで、通訳を派遣してくれる会社があ
  るとは思えません。
    また、今、世間では恒常的なリストラが続いており、正  社員から派遣社
  員へ、自社工場から生産委託へと様々な形の低コスト化が行われています。
  これを手話通訳に当てはめるなら、正職員から臨時職員という、今までの運
  動目標に逆行した流れになります。市場の活性化は、必ずしも労働者、つま
  り手話通訳者にとって良いことにはならないでしょう。

4. 地域福祉の推進
    地方分権の流れに乗り、福祉行政も地方公共団体、つまり都道府県、市町
  村に降ろしていくというものです。
    前の3つに比べてどうでもいい感じはしますが、つまりは国の予算ではな
  く市長そんでやってくれっいうことで地方にとっては泣きっ面に蜂であり、
  我々にしてみれば交渉相手が増えるだけに面倒な話です。

このような構造改革のデッドラインが2003年(平成15年)4月、残り2年を切って
います。

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  手話通訳が介護保険と同じ仕組みに切り替わるための伏線は、すでに張られ
ています。

  まず、通訳者養成の統一カリキュラム。全国各地でバラバラにおなわれてい
た講習会の内容を均一化し、その修了生のレベルを保障しようというもので、
すでに昨年から通訳者養成と奉仕員養成の2つが始まっています。そして、こ
の前者を修了した者に「手話通訳者」という資格を与えよういう構想があるよ
うです。現在、手話通訳士という資格がありますが、これのレベルがえらい高
くなかなか増えないという状況があります。そこで、通訳士を特にレベルの高
い国際会議などの通訳者と位置づけ、普通の生活上での通訳は「手話通訳者」
に任せようということらしいです。この「手話通訳者」は固有名詞で、資格の
名称であることにご注意下さい。奉仕員は、さらに簡単な報酬も発生しないよ
うなボランティアとしての活動と位置づけられるようです。

  この動きは介護保険のホームヘルパーととてもよく似ています。ホームヘル
パーの4級あたりは講習会をめいいっぱい開いて促成栽培してました。養成講
座は時間数も多く、受講生も少ないのですが、需要から考えれば相当でしょ
う。

  ということで、人材と場を揃え、あとは介護保険への組み込みです。どう
いった形になるのか? あくまでも予想ですが、様々な人の意見をまとめると次
のようになります。

  現在の手話通訳事業の予算を介護保険に移行させる。派遣内容による選別
か、障害の重さによるチケット配布により手話通訳サービスを提供する。介護
保険同様の負担金は導入されると思われる。手話通訳者の認定は、手話通訳士
と手話通訳者と手話奉仕員の3つ。国が手話通訳士、都道府県が手話通訳者、
市町村が手話奉仕員を認定するのではないだろうか。認定後、どうやって仕事
していくかは本人と雇用主次第。手話通訳事業は社会福祉協会や社会福祉法人
格の団体だけではなく、民間でも担うことができる。

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  私は、この流れは仕方がないことだと思います。国の財政状態は悪化の一途
をたどっており、かなり思い切ったことをしなければ数十年(もしかしたら数
年後)には破綻するでしょう。そうなれば、手話通訳どころではなく、メルマ
ガを読んでいるどころではなくなります。(いや、逆に失業してメルマガを読
む時間がありあまるかもしれませんけど。)国の動向に関係なく、民間を含め
た市場経済で福祉が成り立つなら、経済的には、そちらの方が安定してます。

  しかし、新規参入もなく、低迷化してしまった地域はどうなるのでしょう? 
結局、今まで通り役所の福祉課や社協が細々と臨時職員としての通訳者を維持
していく形態が続くだけなのではないでしょうか。逆に都会では通訳者が余
り、コスト削減の競争で給料も減り、社会保障も満足につけてもらえない派遣
通訳者ばかりになってしまうのではないでしょうか。それが私たちの理想でな
いことは確かです。昨年の全通研の冬の討論集会での近藤さんの言葉で締めく
くります。

「少し先を予想して、活動しましょう」

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  では、また来週。

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