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    メールマガジン 「語ろうか、手話について」

No. 41 Rev.1                                        2001年12月19日発行
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  皆さん、こんにちは。

  ウィルス騒ぎも一段落と言うところでしょうか。他のメルマガ発行者は毎日
たくさんのウィスルが送りつけられているそうですが、幸いにも私は1日1通ぐ
らいです。この「語ろうか」の読者の方は、かなりパソコンに精通している読
者が多いようで、私は大変恵まれています。ありがたいことです。

  今回お送りしますのは「法律の不備があった場合に、どうしたか」という事
で、民法11条の改正運動についての話です。初版を送ったのは、今年の4月11
日です。かなりこなれた原稿だった(と少なくとも自分では思っています)ので
ほとんどそのままの形で再送します。少し問題があるとすれば、民法11条とい
うものは「準禁治産者」という法律上の権利を行使する能力を奪われるという
状態に聾者が置かれることを意味したものですが、それがあやふやな噂として
広まり、いわゆる都市伝説や無意識の差別のようなことが起きてしまい、純粋
な法律論としては議論しにくい話題であることです。参考文献の1は、そのあ
たりが特に慎重に書かれているのですが、本稿は多少混乱している部分があり
ます。どこが混乱した部分か、それを見分けるのは、皆さんへの宿題としてお
きます。
(ズルい逃げ方だと思いますが、ちと、時間がないので。ごめんなさい。)

  それでは、以下、再配信の原稿です。

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  久しぶりに歴史を振り返ります。題して「民法11条改正の軌跡」。

  今回の「語ろうか」のために以下の貴重な資料を提供していただきました。
篠崎さん、ありがとうございます。

  1) 季刊ろうあ運動 特集民法11条改正の軌跡 (全日ろう連、昭和56年12月)
  2) 聴覚言語障害者のねがい (全日ろう連、昭和52年12月)

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  民法11条問題をご存じでしょうか? 百聞は一見にしかず。昔の民法と今の民
法の11条を比較してみましょう。

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  民法 第十一条

  旧: 心神耗弱者、聾者、唖者、盲者及ヒ浪費者ハ準禁治産者トシテ之ニ保
      佐人ヲ附スルコトヲ得

  現: 心神耗弱者及ヒ浪費者ハ準禁治産者トシテ之ニ保佐人ヲ附スルコトヲ
      得
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  民法って、いまだに文語体で読みにくいのですが、今の民法では、ばっさり
削られた部分があるのは一目瞭然ですね。「聾者、唖者、盲者」の部分があり
ません。

  では、準禁治産者とは何でしょう? 準があるなら、禁治産者もあるわけです
が、民法は難しいので、その差を説明するのは省略させてもらいます。いずれ
にしても、禁治産者や準禁治産者は「重要な法律行為は、自分一人ではできな
い」ということです。(正確には禁治産者はどんな法律行為もできないそうで
すけど、今回は準禁治産者の話なので、説明は省略。)重要な法律行為という
のは、一般的には重要なこと、つまりは金の絡んだこと、法律的には契約と呼
ばれる話です。これが自分ではできないということは、とんでもない話だとい
うことに気がつくでしょう。

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  参考文献の1からいくつかの事例を紹介します。

  - 遺産配分を受けられなかった
  S氏、43歳、聾者。手話によるコミュニケーションは十分可能。妹が2人い
  る。結婚をして実家から離れていた。両親死亡後に遺産の話がなかったので
  妹夫婦に聞いたところ、妹夫婦はS氏に準禁治産者の手続きをして遺産相続
  の喪失を行い、全ての遺産を相続していた。
  準禁治産者宣告取り消しを家庭裁判所に提出し、宣告取り消しまでに約6ヶ
  月。それ以外にも文書量、交通費の出費、調査官の聴取や鑑定のために仕事
  が満足にできなかった。

  - 銀行融資を受けられなかった
  7歳で失聴したM氏。土地購入のために、銀行に400万円の融資を申し込んだ
  が11条を理由に拒否される。

  - 結婚の拒否
  O氏、先天の聴覚障害者、27歳。8年間交際していた同じ障害を持つSさんと
  結婚しようとしたが、Sさんの家族が強硬に反対。そして、O氏は準禁治産者
  だから親の同意無しには結婚はできない、という。
  しかし、結婚は、本人の同意でできるので、未成年でなければできる。しか
  し、民法11条により、このような誤解があったのは事実である。また、準禁
  治産者は宣告という手続きが必要である。O氏の場合は、宣告もされていな
  かった。Sさんの家族は、障害者手帳を持っているだけで準禁治産者の宣告が
  あったと思いこんでいたという。

  全日本ろうあ連盟の当時の調査によれば、民法11条に起因する問題は、以上
の事例で見てきたように遺産、融資、保険、結婚で大部分を占めるようです。
準禁治産者は保佐人の同意のない契約はいつでも破棄できるので、会社経営や
不動産の購入もほぼできないでしょう。

  準禁治産者は宣告というものが必要です。そして宣告されると保佐人という
人がいないと重要な法律行為ができなくなります。重要な法律行為でなければ
できますが、契約なんてあらゆるところにあります。契約の固まりのようなク
レジットカードだって持つことができないでしょう。

  そもそも禁治産者は準禁治産者は、本人を保護するためにもうけられた概念
です。つまり、能力のない人間が、騙されたりして損しないように保護しよう
というのが禁治産者、準禁治産者というものです。

  しかし、聾者は能力がないのでしょうか? 耳が聞こえないだけで、判断がで
きなくなったりしますか? 単に耳が聞こえないだけですよ。耳が聞こえる方も
考えてみてください。もし、30年前だったら、ふとした病気で耳が聞こえなく
なるだけで、あなたもクレジットカードが持てなくなるんです。こんな理不尽
な話がありますか!

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  私が手話の世界に入った時には、すでに改正された後なので、全て伝聞の話
になります。民法11条改正運動は、その前に道路交通法88条改正運動の流れに
あるものなんだそうです。No.11の「運転免許裁判」でご紹介したとおり、道
路交通法88条の改正運動は1968年に裁判が開始されていますから、だいたい10
年間ぐらいの話になりますね。全日本ろうあ連盟の評議員会に、民法11条の改
正問題が取り上げられたのは1973年(昭和48年)のことだそうです。現在の神奈
川聴覚障害者連盟(当時の横浜協会)から次の提案が出されたそうです。

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  人間としての権利は平等であり、憲法に明記されている。しかし、刑法40
  条や、民法11条は明治時代のものを引き継いでおり、刑法ではろうあ者は
  自らの判断及び意見を発表できないと言う理由で罪の軽減を定め、また、
  民法では「無能力者」であるから契約などをする場合に責任を持てぬ人間
  として保佐人を要する準禁治産者扱いをしている。このような人間として
  の権利を制限する法律があることは差別を容認するものであり、廃止すべ
  きだ。
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ついでなんで、刑法四十条にも触れておきます。昔の刑法四十条は、次のよう
になっていました。

  第四十条 イン唖者ノ行為ハ之ヲ罰セス又ハ其刑ヲ軽減ス
  (但し、「イン唖」のインは本当の表記は漢字です。)

  これは、聾者はどんな犯罪を犯しても無罪になったり、減刑されるというも
のです。得したと思います? 私は、これは民法11条と同じで、聾者を一人前の
人間として認めていないから、情けをかけてやろう、という余計なお世話だと
思います。

  このように神聴連からの提案を受け、民法11条改正運動は、全国的な流れと
なっていきます。1975年(昭和50年)2月に衆議院の予算委員会で高田英一氏が
民法11条がいかに聴覚障害者が不合理なものかを訴えます。1976年(昭和51年)
の山口での全国ろうあ者大会で改正運動を大会決議し、署名、カンパ活動が始
まります。最終的には署名68421名、カンパ額8887437円が集まったそうです。
参考文献1によると、この運動は、東京や大阪、京都のような中央だけでなく
全国、そして一般世間にまで運動の幅を広げていったという点で一つの転換期
だったそうです。参考文献2は、この時期に作られたもので、全国的な取り組
みに活用されたそうです。ここには、道路交通法88条の改正、手話通訳の制度
化、民法11条の改正、聴覚言語障害者総合センターの建設の4点についての経
緯や目標が書かれています。このような資料と各団体の運動がうまくかみ合っ
て全国的な広がりが生まれたようです。当時を体験していない私には想像する
しかないんですが、それまで全体としては散発的、中央の熱心な人は異様に活
発という状況から、目標の明確化と基本資料の蓄積と配付により、運動を広げ
ていく手法の確立があったのではないかと思います。

  そして、多少滞ったりしながらも、民法の改正は1979年(昭和54年)12月に改
正案が衆参議員を通過、昭和55年6月から施行されています。

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  改正運動に直接関わっていない私ですが、この運動を関係書籍で調べてみて
思うことは、これが社会的に内在している差別意識が法律という裏付けを持っ
て出現したのではないか、ということです。つまり、普通は差別的な行為や言
動は、自主的に出てこないものです。ある店が障害者だからって物を売らない
とか入店を断ったと言えば、すごい問題になりますよね。でも、民法11条の場
合、銀行が融資を断ってもそれが法律に裏付けられているということで、堂々
と断るし、それが悪いとも思っていないわけです。でも、人道的に考えれば、
どう考えても、これは差別でしかないわけです。

  法律は確かに社会を構成していく上での規範ですし、法曹界の人は一部の例
外を除いて、とても厳格な人ばかりです。大学でも、法学部の意見は一目置か
れる存在です。でも、たまに間違いはするのです。特に民法のような明治の昔
に作られた法律には、このような間違いがたまにあるわけです。私達は、常に
自分の良識に問いかけて、物事を判断しなければなりません。そのことを忘れ
て、単なる法律を振りかざすと、このような間違いが起きるというのを思い起
こすべきでしょう。

  耳が聞こえないだけで、人間としての能力が低いと見てしまう。色々な力が
人間にはあり、音を聞くことは、人間の能力の一部です。そのごく一部ができ
ないだけで、全人格を否定するようなことは明らかに差別です。しかし、大な
り小なり、こういうことはよく見聞きします。例えば、聾者は会議が長いなん
て話はたまに聞きます。私は、それって個人差だよなぁ、と思います。だいた
い司会役の健聴者がうまく仕切れない場合が多いのです。でも、そういう誤解
が何かで裏付けられた時、差別につながっていく可能性はあります。そういう
時に、この民法11条を思い出すべきですね。

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  最後に刑法四十条について補足しておきます。(刑法だけで「語ろうか」1本
文の原稿は書けそうにないので...)刑法四十条は1995(平成7)年6月施行の段階
で、ばっさり削除されています。
  刑法四十条といえば、西村京太郎作の「四つの終止符」を思い出します。あ
の話では、容疑者となった青年が裁判で争う段階になって弁護士から、四十条
を使って無罪にしようと提案されます。それを拒否して自殺するところが、あ
の小説の「ミソ」だと思うのですが、最近テレビ東京でドラマ化されていた時
は、改正後だったので、このネタが使えず、すっかりふぬけたドラマになって
いましたね。ドラマでも聴覚障害者が特別視されなくなったと言うことかもし
れませんけど。いや、まだ、そんなことはありませんね。星の金貨も、また手
話が特別視されていますから。あれも法律からしてとんでもない話が入ってい
るんですよね。

  聾者が特別視されない、差別のない社会を目指して、日々活動は続いていま
す。まだ、色々な残された課題はあります。皆さんも、こういう運動に参加し
てみません?

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  今週末はクリスマスです。皆さん、良いクリスマスを。

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