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             _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』   _/_/
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No. 38                                              2001年 3月21日発行
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  こんにちは。
  色々な反響があった手話技能検定試験ですが、先日の日曜日に無事に終わっ
たようです。この原稿を書いている時には、あんまり状況をつかんでいないの
ですが、受験した方の経験話などもお寄せいただければなぁ、と思います。

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  先週は全日ろう連と全通研、そして私の個人的な意見を述べてきましたが、
いよいよ今週は、それに対する手話技能検定協会の見解をご紹介します。今回
の「語ろうか」の元ネタは、電子情報通信学会の福祉情報工学研究会という場
で、手話技能検定協会の理事長である神田先生が行った講演と、質疑応答、そ
れと雑談を編集したものです。書き起こしではなく「編集」していますので、
正確さに欠けていますが、雰囲気や、神田先生の考えは皆さんにわかっていた
だけるのでないかと思います。

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  電子情報通信学会(略称:信学会)は、電子関係の学会では日本最大のもので
工学に所属する者なら名前ぐらいは絶対に知っているぐらい大きい団体です。
福祉情報工学研究会は、信学会にあるうん十という研究会のうちの一つで福祉
に関するあらゆることを工学的に解決するための発表の場として定着しつつあ
ります。まだ新しい研究会ですが、参加者が多いので来年から格上げされるそ
うです。これはサッカーでJ2からJリーグに入るような感じです。それぐらい
最近では福祉が工学でも注目されています。ま、それはどうでもいい話。

  福祉情報工学研究会は千葉大の市川熹先生が主催していて、私が以前、市川
先生の所で半年ほどお世話になった縁で、この研究会にはちょろちょろ顔を出
しています。神田先生と市川先生は、手話の研究を共同で行っている関係で、
今回、話題の手話検定について話をするということになったようです。

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  3/9の研究会当日。私は気合いを入れて乗り込んだのですが、神田先生の姿
はありませんでした。他の人と話をしていても、皆さん、工学研究者のためか
なんで手話検定なんてテーマで講演があるのかよくわからん、という状態でし
た。

  そんなこんなで、神田先生は当初の予定より遅く昼過ぎに登場。ちょうど昼
食を食べ終わった私は運良く神田先生と30分ほど雑談する時間を得ました。

  話は、全日ろう連などの聾者団体からは、猛反対をくらっているということ
から始まりました。これは神田先生も予想通りだったそうです。それに対する
神田先生の見解は「これは手話の技術面だけを測定するものだから、全日ろう
連の批判は的外れ」というもので、パンフレットの見解の繰り返しでした。
  私は、手話から純粋に技術面だけを抽出できるのかが問題だと思うのですが
神田先生はそれができると信じ、全日ろう連はできないと信じているわけで、
客観的に立証できない以上、これは水掛け論です。私は、この点は、これ以上
つっこまないことにしました。

  それよりはコミュニケーションサポーターの方が心配です。実は、これにつ
いては神田先生にWWWの掲示板経由でお願いをしており、その点はすでに対策
を考えているとのことでした。まず、手話検定の資格が通訳技術を認めるもの
ではないということを明記したパンフレットを新規に作っていること。今後は
検定の呼びかけは社会福祉協議会ではなく、学校経由にしたいとのことです。
なぜ、学校かという点ですが、これは今回の受験者に学校の手話クラブ等に在
籍している子供達が多いという事実と、社協ではないとしたら、学校ぐらいし
か配布ルートが思いつかない、という理由からです。そして、手話検定の説明
には依頼があればできる限り答えるし、電話や手紙を書くぐらいならいくらで
もするとのことでした。これは個人的な印象でもあるのですが、神田先生はそ
ういう点では男気のある方で、手話検定も信念を持って始めたわけですから、
このあたりは信頼して、妥協してもいいんじゃないかと思います。

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  雑談はこのあたりで時間いっぱいいっぱい。後は研究会での講演とその質疑
応答をご紹介します。なお、講演内容は当日のスライドの抜粋です。講演資料
はあるのですが、内容はパンフレットの繰り返しと、若干の団体批判です。特
に批判の部分には多分に攻撃的な表現を含んでいるのですが、ここではご紹介
しません。皆さんには不満かもしれませんけど、私が読んでいて、かなり誤解
を与えそうな勇み足表現がみられるのと、神田先生もそのあたりを考え直して
講演ではあまり触れなかったという事情があります。ということで、混乱を助
長するよりは、講演は概略のみで、あとは質疑応答のみ、ご紹介することをご
了承下さい。

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  神田先生の講演概要

  手話技能検定の構想は12年前からしており、NPOという制度ができたこと
  資金を寄付してくれる人がいたこと、もう待てないと言う気持ちがあり反
  対を覚悟で始めた。
  反対の理由は色々あるが、自分としては以下のようなものだとまとめてい
  る。
  - 手話教育を福祉から切り離す事への抵抗感。「手話で金儲けはとんでも
    ない」「事前に相談がない」など。
  - 委託事業の確保。民間参入阻止。
  - 公的援助と政治的偏向

  手話技能検定は手話の技能のみを測る試験であり、次のような特徴があ
  る。
  - 試験範囲の公表
    言語力は経験年数では測れないので、公平な試験を実施するためには
    範囲を示すことが必要だと考える。
  - 読みとり技術試験中心
    言葉というものは聞いてわかるのなら話せるようになる。だから、手
    話の場合は「読みとれる手話は表現できる」ということになる。
  - 通訳試験は専門知識が必要
    手話技能検定は技能のみを測定する。
  手話通訳になるためには、この試験だけでは不十分であるのは我々もわ
  かっている。さらに、専門知識を学ぶことで、手話通訳者になってもら
  いたい。手話技能検定は、その最初の技能を確認するための試験である。

  手話技能検定の意義は次のように考えている。
  - 手話学の啓蒙
    手話が言語であるというものを広く世間に知ってもらいたい。
  - 学習者自身が学習到達度を知る
  - 試験があることで、学習の動機となる

  手話は概念上の区別(日本手話 vs 日本語対応手話)と、実態上の区別(聾
  者、中失難聴者、聴者)というものがあるが、最近は自分はもっと幅広い
  ものがあるのではないかと考えている。最近では、手話モデルは  複雑化
  (方言の均等化)し、語彙カテゴリー、文法カテゴリーの研究はさらに重要
  度を増している。手話技能検定がこの分野にも寄与できると良いと考えて
  いる。

  試験は、第一回試験が3月18日に東京、大阪、名古屋で行われる。受験者
  総数1720名。内訳は3級が498名、4級が412名、5級が490名、6級412名。受
  験地別に数えると東京398名、大阪530名、名古屋360名となっている。全
  国40都道府県から受験されており、年齢も9歳〜72歳と幅広い。障害者の
  受験者52名申し込まれている。このような様々な人からの申し込みに責任
  と期待を感じている。
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  お金の話は、単に寄付してくれたってだけのようです。講演からの印象だけ
ですけど。あとは、従来の神田先生の主張通りで、私としては特に目新しい話
はありませんでした。

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  さて、質疑応答です。以下、Qが質問、Aが神田先生の答えです。私を含めて
誰が質問したのかは、メモも不完全なので記録していません。

Q. なぜ級別制にしたのか? 最近の流行はTOEICのように点数で線形な評価結果
   を示す方法である。その方が学習者にとってはわかりやすくないか?

A. 得点制の試験は一定の層にいないと有効に機能しない。英語は他にもいく
   つかの検定があるので、TOEICのようなテストが機能していると考える。手
   話は、まだそこまで社会的に成熟していない。

Q. 本当に公平な問題が作成できるのか? 地域差、年齢差、個人差をどうやっ
   て考慮するのか?

A. 5級のモデル、6級のモデルというような技術的なモデルを設定する。今回
   は今回は東京と名古屋の人をモデルにしている。その際に聾者を東京から
   選んだら、健聴者は名古屋から選ぶというような工夫をしている。
   最終的には、概念的に統一化した手話を検定することになるだろうが、現
   在はそこまでに至っていない。今後広く(試験地を全ての都道府県でやる
   ような状態で)試験が行われるときには、試験の作り方は考慮しなければ
   ならないと考えている。

Q. 個人差の大きさはかなり難しいことだと考えるが、試験はいわゆる共通化
   にもつながる。それは可能だろうか?

A. 共通化と多様性は相反することだが、このような試験の宿命だと思う。
   しかし、初めて見た手話でも理解できることが言語力の高さであると考え
   る。試験は、インフォマント(表現者)に依存することになるが、それが直
   ちに試験の難しさになるとは思わない。

Q. 大学のセンター試験のように蓄積があっても公平な試験の作成は大変だ。
   どのようにレベルを保つのか?

A. 試験の結果のデータをきちんと取って分析することが大切だろう。逆に、
   レベルを把握している受験者をモデルケースにしてレベルを保つような工
   夫をすることを考えている。自分達が教えているグループがあるので、そ
   の人達を参考データして使い、技能レベルのモデルを確立していくことを
   考えている。大学入試ではダミーが使えないが、手話検定では実施できる
   ので、かなりうまくいくと思う。

Q. 障害者でも受験できるというが、盲聾者でも受験できるのか?

A. 触手話はテスト方法がなくて今は考えていない。私は盲聾触手話1級とか別
   の試験を作った方がいいのではないかと考えている。もっとも、それは
   ずっと先の話だが。

Q. 試験は公表されるのか?

A. 肖像権の問題があるので、それをクリアした人だけのビデオを作成し、有
   料頒布する。試験結果は公表する。

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  以上、手話技能検定について見てきました。

  神田先生も信念を持って検定試験を始めた以上、これはとても止められるよ
うなものではないでしょう。それに、検定試験を取り巻く環境は逆風ばかりで
はなく、むしろ逆の風の方が多いのかもしれません。

  あとは私見です。まず、全日ろう連の批判ですが、健聴者が進めている云々
はいまひとつ説得力がありません。健聴者だからいけないとなれば、通訳者が
主体となって活動はできなくなります。それから事前相談がないという話です
が、私でも昨年10月に話を聞いているぐらいです。単に無視していただけでは
ないか、それに連絡をもらった時点から会合を持てばいいんじゃないかと思い
ます。
  手話から技能を取り出すことができるのか? 手話技能検定協会は「できる」
と考え、全日ろう連は「できない」と考えてます。私はこれは客観的に証明で
きないと考えます。どちらかと言えば「できる」と考えます。というのは、言
語は理屈として文法や語彙からなる現象であり、それを利用して自然言語処理
という分野では仮名漢字変換や機械翻訳という成果を出しています。手話も同
じように、言語単体として抽出することはできると思います。ただ、これを証
明するのは難しいです。ですので、この点は保留しておきます。たぶん、水掛
論になるので、この点で言い争うのは賢くないと思います。
  全日ろう連の指摘で最も共感できるのは「現場が混乱する」という点です。
現在、手話通訳者の設置、派遣を養成講座の整備、手話通訳士の資格を中心に
進めてきています。色々不合理な点もありますが、歴史的な理由や何よりも縦
割り行政との折衝の中で生み出してきた苦心の成果です。新しい資格の出現は
ただ存在だけで、すべてご破算にしてしまうパワーがあります。コミュニケー
ションサポーターは、まさにその典型例です。ただ、すでに始まってしまった
手話検定は止められないでしょう。仕方ない話ですが、このような問題点は個
別に潰していくしかないでしょう。
  最後に試験自体の疑問をあげます。つまり、この試験が一体何を測るのかわ
かりません。よく言う冗談に「知能検査でわかることは、知能検査テストで何
点取れるかということだ」というものがあります。つまり、知能テストと知能
には関係がないという話です。手話技能検定の結果は何を示しているのでしょ
うか? 東京と名古屋の手話をどれだけ読みとれるか、ということだけのように
見えます。これは私のように田舎で手話を勉強した者のひがみでしょうか。テ
ストを改良していくことは可能だと思いますが、どんなテストであっても、受
験生はそれが所詮テストの点数であることを自覚する必要があると思います。

  手話技能検定自体は始まってしまったし、いくつかの問題はあるにしても、
とてつもなくすごい問題を引き起こすわけでもなし。受けたい人は受ければい
いんじゃん、と私は思います。あまりいい手話試験とは思えないけど、役に立
つ人はいるでしょう。でも、なーんも考えずに受験するのは、危うさがありま
す。「語ろうか」を読んでいる皆さんは、すでに大丈夫だと思いますけど。

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  では、また来週。

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