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               _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』  _/_/
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No. 33                                              2001年 2月14日発行
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  皆さん、こんにちは。全通研の討論集会から無事に戻って参りました。

  個人的にはとにかく充実した集会でした。その報告は今週末に私の所属する
全通研支部で報告会があるので、それと共においおい皆さんにもご紹介してい
くとして、まず1つだけ皆さんに伝えなければならないことは、「神通研の手
話講習会8項目の虎の巻を見たらすぐに買え」ってことだけです。これは製本
もされていない資料ですが「語ろうか」がかすんでしまうような資料でした。
噂には聞いていたのですが、簡潔にこれだけ充実したものは、今まで見たこと
がありません。800円ですが、私は1500円ぐらいの価値があると思います。少
し前のユースケサンタマリアのチューハイのCMの言う通り「とにかくこれは買
いってことよ。」
  それにしても、覚悟していたとはいえ1万円近い本代は、懐も痛いけど、帰
り道も重くて疲れました。

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  さて、そんなわけで討論集会で時間がないので、今日は事前に準備していた
原稿です。すみません。その代わりといってはなんですが、このメルマガを読
んでいる人にはほとんど知られていない珍しい世界をご紹介します。

  それは手話と特許の話。世の中ITとばかり浮かれていられないと言うのが今
日のテーマです。

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  まず、特許についてお話ししましょう。

  特許を考えて一儲け、なんて考えている人もいるようですが、特許は、そう
うまい話ではありません。まず、そのあたりから解説していきます。

  特許は、特許法によって規定されている権利で、その審査等の業務は特許庁
によって行われています。ちなみに、かの有名な早口言葉「東京特許許可局」
というものは存在しません。

  特許庁のホームページ(http://www.jpo.go.jp/indexj.htm)がかなり充実し
ているので、詳しく知りたい人はそれを見てもらうとして、簡単に特許とは何
かといえば、(特許庁の説明によると)「自然法則を利用した新規性のある産業
上有用な発明に対して20年間与えられる独占」権のことです。

  例えば、Aさんが空を飛ぶ車を発明したとします。これは頭で考えただけで
はなくて、実際に物があるか、もしくはその方法を聞けば誰でも「なるほど、
それなら空を飛ぶ車が作れますね」と納得できなければなりません。Aさんは
その方法を特許庁に申請します。特許庁は審査して、その結果、それが今まで
にない新しい方法で、役に立つ物ならば、Aさんに「空を飛ぶ車を作る」特許
権を認めます。そうなると、Aさん以外の人は、Aさんの許可なく、空飛ぶ車を
作ってはいけないのです。これが独占の意味です。

  もし、空飛ぶ車を作ろうとすれば、Aさんの許可をもらうか、Aさんの考えた
方法以外のやり方で作らなければなりません。勝手にAさんと同じ方法で作っ
たら損害賠償などを払うことになります。この権利は20年間も続くのです。今
発明されたら、2020年までAさんに断りなく空飛ぶ車には作れないのですよ。
えらいこっちゃ。

  Aさんに許可をもらう方法は、直接Aさんに交渉すればいいのであって、無料
でOKをもらえるかもしれません。でも、普通そんなことはなくて、申請にも、
特許の維持にもお金がかかるので、空を飛ぶ車を1個作るごとに○円とするも
のです。それが沢山売れればAさんも儲かるけど、売れなければ儲からない。
だから、特許そのものを売ってしまうという方法もあります。これだと売れる
売れないに関わらずAさんはお金をもらえます。そのあたりはAさんの考え方、
Aさんとの交渉次第というわけです。

  なお、似たような権利に「実用新案」というものがあります。これは「物品
の形状・構造・組み合わせに関する考案に対して最大6年間」の独占を認める
権利です。特許権よりは少し弱いのですが、同じような権利です。例えば、携
帯電話の形などは、この権利で保護されています。

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  ちょっと話を整理しながら、特許が成立過程を見ていきましょう。

  1. 出願
    まずは特許庁に、発明した内容を申請します。この時の書類は規定の物で
  きちんとしたものでないと戻ってきてしまいます。ここで受付された日時が
  とても重要です。同じ発明を申請した場合は、この日時が早いほうが優先さ
  れます。ですから、後から同じ発明をしても全く権利は認められません。審
  査でも新規性が重要視されるのは、この先願主義のためです。

  2. 出願公開と審査請求
    出願されて1年6ヶ月すると発明の内容が公報に載ります。これで、どんな
  人がどんな出願をしているかわかります。そして審査請求が行われると、審
  査が始まります。ここで請求しなければ7年後に取り下げとなります。もち
  ろん自主的に取り下げすることもできます。取り下げとなると永久に特許に
  はなりません。

  3. 審査
    審査請求された出願は、特許庁の審査官によって審査されます。ここで要
  件を満たしていれば特許となり、そうでないものは拒絶査定となります。拒
  絶査定の時は意見書を出すなどの方法がありますがここでは省略します。
  なお、ここでの審査要件には次の点が重要です。
    a. 何かの産業に利用できるか? 有用でなければいくら理屈が素晴らしく
       ても特許にはなりません。
    b. 出願前に、その技術思想はなかったか? 似たようなものがすでにあっ
       たら特許として認められません。
    c. その技術分野を理解している人が、容易に発明をすることができたも
       のでないか? つまり、「誰でも」すぐに思いつくような物は特許には
       なりません。
    d. 他人よりも早く出願したか? 出願の日付が重要です。
    e. 公序良俗に違反していないか? 人殺しの機械は特許になりません。

  4. 特許公報発行 
    審査を通ると設定登録といって、特許となり、その内容が特許公報に載り
  ます。

  5. 異議申立 
    ここからが特許の面白いところ。特許公報を見た人が、「この特許は新規
  性がない」などの意見を言うことができます。これを異議申立といい、これ
  が認められると、特許が取り消されるのです。特許の有効無効は裁判で争う
  こともありますが、この時点で申し立てた方がずっと楽です。

  なお、一つ付け加えておくと、この例は「空飛ぶ車」で説明しましたが、特
許権はそういう単体で与えられるものではなく、申請する範囲というものがあ
ります。だから、申請するものが「空飛ぶ車」という名称でも、具体的に認め
られる範囲は「空飛ぶ車のタイヤの原料の配合方法」というように、書類をよ
く読まないとわからないことが多いです。このへんが特許の話の難しいところ
です。ご注意下さい。

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  そもそも、なんで、こんな権利があるのかというと、ある一定期間独占的な
権利を与える代わりに、その方法を公開してもらう。その結果、全体的には産
業を発展させようというものです。ですから、特許の審査では新しさと有用性
が重要なわけです。今までにあるものに権利を与えたら、それを独占されてえ
らいことになりますし、役に立たないものに与えても、そんな方法を公開して
もらっても意味がありません。

  でも、特許庁も万能ではないので、たまにあるんです。すでにあるものが審
査を通ってしまったり、こんなくだらないものを通すなよって思うようなもの
が。今回と次回では、そんな色々な特許を見ていきます。ただ、特許は前述の
通り、書類の読み方とか色々難しい点もありますし、私も特許について完全に
理解しているわけでもないので、危機感とお笑いの心を持って読み進めて欲し
いと思います。

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  特許の公報は、以下のページで検索できます。たぶん。省庁再編などがあり
ましたので、もし変更されていたら、特許庁のホームページから、公報検索を
見つけて、そこから探して下さい。ご紹介する特許は出願番号で検索できるは
ずです。

  http://www.ipdl.jpo.go.jp/Tokujitu/tjkta.ipdl

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  では、具体的に特許とはどんなものかを見ていきましょう。正確には出願書
類ですので、まだ特許にはなっていませんが、今回紹介するのは個人的には特
許になる可能性が強いだろうなと思うものです。

  手話の研究は民間企業では、日立製作所と松下電器がトップを突っ走ってい
ます。まずは日立製作所の代表的な手話と記号列変換に関する出願をご紹介。

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  手話メ―ル装置 (日立製作所)
  特許出願番号 平成11-13973
  特許公開日 1999年1月22日

  課題:
  手話動作を音声言語に変換したり音声言語で入力された情報を手話動作に
  変換し、入力情報に含まれる言語情報および非言語情報をメールとして送
  受信する。

  解決手段:
  音声言語で入力された情報から言語情報および非言語情報を抽出し、同情
  報を用いて手話動作を生成する手段と、手話動作として入力された情報か
  ら音声言語情報を生成する手段を構築する。
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実際の公報には図表が入っていますから、それを見た方がわかりやすいので
すが、この特許は、手話を記号列に変換してE-Mailとして送信し、受信側で
記号列を手話に戻すというもの。こうすれば、E-Mailを使って手話を送るこ
とができるというわけです。直接、手話を電送するよりは線が細くても送れ
るというわけです。奈良先端大の黒田さんが、同じ発送で研究をしています
ね。私の記憶が確かなら、CGによる送信では黒田さんの方が先だったように
思います。

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  次に紹介するのは、最初に紹介した特許に近いもので、会議システムに手話
の送受信装置を付加したシステムです。

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  出願番号 : 特許出願 平成11-172027
  出願日   : 1999年6月18日 
  公開番号 : 特許公開2001-8183
  公開日   : 2001年1月12日 
  出願人   : 宮城日本電気株式会社
  発明者   : 鈴木 和弘 外1名

  発明の名称 : テレビ会議用端末

  課題 :
  耳や言葉の不自由な利用者に適するテレビ会議用端末の提供。

  解決手段 :
  耳や言葉の不自由な利用者がリモコン25のボタン26を押下することで、着
  信をランプ20の点灯で通知するように呼出選択部30を設定し、そして、画
  像データコントロール部14のQCIF画像符号復号化部14Qを選択し、そして、
  音声データ変換回路部16の動作を停止する。着信の際、耳や言葉の不自由
  な利用者に着信をランプ20の点灯で通知する、と同時に、発信者名前と発
  信者電話番号とを文字情報でモニタ22に表示する。画像はQCIF画像符号復
  号化部14QでQCIF画像符号化されるので、耳や言葉の不自由な利用者の手
  話に合った、速くてきめ細かな画像でテレビ会議ができる。
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  この中の数字は図表の中の番号です。「語ろうか」では図は省略しなければ
ならないのでよくわかりませんが、遠隔会議システムの画面に手話の画面がつ
いている図が描かれています。これって新しいんですかね? 今の通信環境が手
話を送るほど早くないから、通信回線を選択することとQCIFとかいう画像形式
が工夫しているところなんでしょうけど。ちょっと新規性には欠けるかな。

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  2件ほど紹介しましたが、前述のページで「手話」をキーワードに検索する
とこんな出願が80件以上出てきます。特許の世界にも手話は登場しているので
す。

  ここで考えて欲しいのは、こういった特許(審査中も含めて)は「なるほど」
と思う物もありますが、たいしたことないものや誰でも考えつきそうなものが
あります。そういったものに特許を与えるとどうなるか。特許は本来産業の活
性化になるはずのものが、逆に権利所有者の許可なく作れないことが、我々の
不利益になるのではないかと懸念します。

  まだ、いくつか紹介したいものがあるので、来週も続けます。
  では、また来週。

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