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               _/_/ メールマガジン 『語ろうか、手話について』  _/_/
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No. 22                                              2000年11月29日発行
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  みなさん、こんにちは。私のいる千葉県では11月は情提や派遣制度の学習会
が多く、とても勉強になりました。「語ろうか」に載せるレベルまでには理解
できた自信はないのですが、ボチボチ反映していければなと思います。

  さて、あるMailing Listで「語ろうか」が話題(批判?)となり、そのためか
読者が急激に増えました。今までは週に2、3人程度の増え方でしたが、今週は
突然60人以上増えまして、現在700人に迫る勢いです。このような状況でただ1
人の考え方だけが流れてくるのはちょっと異常だと考えています。増刊号など
でご意見の紹介をしていますが、まだ足りないと思います。単なる悪口や潰す
ことだけが目的の意見はこちらでカットしますが、建設的な意見はどんどん配
布していきたいと考えています。積極的にご意見をよろしくお願いします。

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  いよいよ本題です。
  今日のテーマは順延となっていた「表情は手話なのか?」です。これはNo.14
の続編でもあります。

  表情が手話に含まれると言うことは直感的には昔から認識されていました。
5年ほど前には手話研究でうなづきの分析が爆発的ブームになり、これは今で
も続いています。また、市販の手話の本をパラパラと読んでみると、最初のあ
たりに「手話は、手や腕、表情を駆使した視覚言語である」といったことが書
かれています。私も論文を書くときには、始めの節にこんなことを書いていま
した。手話をちょっとでも学んだ人なら、表情がいかに表現を豊かにしてくれ
るか、すぐに気がつきます。初級講習会でも表情の大切さは強調されますし、
手話に表情が必要なことは常識といえるでしょう。

  しかし、今の私はこの考え方に少し疑問を持っています。そこで今回はあえ
てその常識に挑戦してみます。「本当に手話に表情は必要なのか?」

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  このようなことを私が考えるようなったのには、2つのきっかけがありまし
た。

  1つ目は「まばたき」についての指摘でした。

  私も最初に初級講習会を受講していた頃は「表情や口話も大切に!」と講師
に言われ、なるほどなぁ、と思っていました。その時の講師であり、私の手話
の師匠となった人は、県内でも有数の聾者的手話の使い手で、特にパントマイ
ムのような図象的表現はとてもうまく、手や腕だけでなく、表情を駆使したそ
の表現に私は魅了されました。
  それから2年ぐらいたち、手話学会にも参加するようになった頃、「はじめ
ての手話」が出版されます。その本に示された、眉の動き、視線といった顔の
パーツを分解して、その意味を述べていく方法にとても感銘を受けました。表
情なんて漠然とした捉え方ではなく、具体的な動きを解析的にとらえ、そこに
言語的な解釈を加えていく方法に、引き込まれていったのです。

  それが変わるのは、確か、ほんの半年ぐらい後のことです。
  手話について解説した文章を何かの雑誌で読んでいて、その中に「まばたき
も手話である。」という文を見たのです。この一言で私はカチンときました。
  私に会った人なら知っていると思いますが、私は異常にまばたきが多いので
す。これはチック症状という一種の精神的な病気で、たいていは中学を卒業す
る頃には消えてしまうのですが、なぜか私の場合残ってしまい、今に至ってい
ます。石原慎太郎さんも同じ症状ですね。私の方がひどい感じですが。そして
「まばたき」は私にとってのコンプレックスであり、「まばたき」という言葉
自体にとても敏感となっています。そんなわけで「まばたきも手話である」と
言われたときに「じゃぁなんだ、俺は手話が満足に話せないのか?」という考
えが起き、その結果として「まばたき? そんなものが手話であるわけがない」
という結論が出てきたのです。そうなってくると、今までの眉上げ、うなづき
視線、口形、どれも疑うことなく手話であると信じてきたけど、本当にそうだ
ろうかと考え始めたわけです。

  もう1つのきっかけは、私の手話の研究上の必要性でした。

  私は学生の時にコンピュータ(専門家は計算機と呼ぶのが通とされています)
で手話を扱う研究をしていました。現在の計算機で手話を扱う手法は確立され
ていません。その最も大きな原因は手話に文字がないことです。そこで、手話
をビデオに撮ってそれを記号化するという手順が必要となりました。その際に
なんでもかんでも記号化するといくら高性能の計算機(コンピュータ)でも大変
です。そこで、手話が言語としての役割を果たすための必須要素は何かを検討
しました。

  検討方法はある意味、簡単にできます。それは手話を話ながら、ある要素を
削ってみて、話が通じるかを確認していけばいいのです。

  情報を担う表情というのは、眉とか視線のように、動く範囲や方向が大きく
数値化するのはとても面倒です。そこで、手話から表情をなくすことはできな
いかと考えたわけです。
  言語として情報を伝達するには何が必要か? 実験的に確認すればすぐにわか
ります。例えば、手の形が必須かどうかは、手を「さ」で固定して手話で話せ
ばわかります。ほとんど意味のある会話はできませんので、手の形は必須であ
ることがわかります。同じように右手だけとか、目をつぶってということを試
していきます。常識的な結論ですが、手形、動きは必須要素となりました。し
かし、視線、表情は削っても通じることがわかりました。確かに多少わかりに
くくはなりますが、わからないというレベルではない。そこで、計算機で手話
を扱うために、まずは表情という要素を省くことにしたのです。

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  このようなわけで表情が手話であるかを改めて考えてみます。

  前述した私の2つのきっかけは、どちらも言語の必須要素として考えた話で
した。しかし、必須でない要素もありますし、必須でないから必要ないという
ことでもないでしょう。このあたりのことを日本語を例にして話を進めていき
ます。

  言語の捉え方というものにはいくつかの方法があると思います。私の所属し
てきた工学の自然言語処理では形態素というパーツ、それを組み立てる文法と
いう規則、組上がった文から発生する意味というように、解析して記号化でき
る形体として言語を把握します。その他の方法としては、生まれてからその言
語を話すネイティブを連れてきて、その人が認識できるものとして言語をとら
える方法もあるでしょう。他にも機能的に何ができるかという方面からとらえ
る方法があると思います。今回はこの最後の方法からアプローチしてみます。

  言語の役割とは何でしょうか? 究極的にまとめれば「(情報の)伝達と記録」
の2つになります。この世の中のあらぬる事象、現象を言語は伝えて、記録し
ます。これは日本語でも英語でも同じことです。手話も同じでしょう。ただ、
手話には文字がないので、ここでは記録の面は考えないことにします。では、
言語が伝達する情報とはなんでしょう? 「いつどこで誰が何した」のような
5W1Hはもちろんそうです。風景や動物園で見たパンダの様子、昨日会った人の
表情のような具体的な物も当然そうです。さらにDNAの螺旋構造や地核プレー
トの状態、多様体での演算規則のような目に見えない物や抽象的な物も伝達で
きます。このような様々な情報を伝達します。

  「様々な情報」についてもう少し詳しく見ていきましょう。情報の中身は事
実と感情の2種類に分類できると思います。(そういう説を探したのですが、見
つかりませんでした。どなたかご存じの方はご一報を。)事実とはDNA構造や交
通事故の実況検分など客観的なもの、感情とは笑い、泣き、慌てているといっ
たもの。完全に分離できるわけではありませんけど、人が受け答えする場面で
は情報の質をこの2種類に分けられると思います。
  なぜ、この2種類に分けたかというと、例えば日本語が話されている場面で
この2種類の伝わり方が違うように思うからです。事実は日本語の中身を理解
することで伝わります。一方の感情は話し方(早口とかにこやかにとか)により
伝わっています。淡々と怒りを伝えるという方法もあるとは思いますが、一般
的には怒鳴りながら話す方が怒りという感情は伝わります。

  これを手話で考えてみますと、事実の方は手の形や動きで伝わります。一方
の感情の方は「怒る」という手話よりも怒った表情の方が伝わりやすいです。

  今の日本における手話を考えると、私はまず事実を伝える手話の普及が喫緊
の課題だと考えます。そのためには、事実を伝える手話を教える必要があり、
副次的に表情は後回しでいいだろうと考えるわけです。確かにわかりやすい手
話は大切だと思いますが、中身がなければいくらわかりやすくても、無意味で
す。

  ここでひとつ言語学で指摘された話を取り上げます。それは疑問形の時に首
を傾げる(かしげる)動作です。昔の初級講習会では疑問形はてのひらを上にし
て前に出していましたが、最近ではみんな首を傾げる方法に転換しているよう
です。この例は表情が事実情報を伝達する手話の特異例としてあげられるもの
です。うなづきやある種の間(動作の止め)など、手話では一見すると感情の表
現ととらわれるようなものが、前述の事実情報の伝達として役割を果たしてい
るのは確かに存在します。
  しかし、疑問形について、私の感覚では、全てを首を傾げる動作に置き換え
はできないように感じます。首を傾げる動作は対面の会話や親しい人に対する
問いかけという意味合いが強いように感じます。ですから、講演会などの一方
的に話す場面で、「今の教育に必要なものは何か? 情熱です。」の「か?」を
首を傾げるだけで終わってしまうと、何とも迫力不足です。ここは手のひらを
上にして「か?」と表現したいところです。

  日本語に敬語があるように、NHKアナウンサーが話し方を厳しく訓練される
ように、1つの言葉でもいくつかの種類があります。手話における表情は、私
の印象では、感情面を伝えるのに有効ですが、それだけというわけではありま
せん。表情全てが手話ということではありませんが、必ず表情をつけるべきと
も思えません。自分の手の届く範囲で、表情を取り入れていけばいいんじゃな
いかと思います。

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  今回で手話についての考え方は一区切りをおきまして、次回から手話サーク
ルについて考えていきたいと思います。日本手話などのご意見は来月中に何本
かの増刊を予定していますので、ご意見をどしどし送って下さい。よろしくで
す。

  では、また来週会いましょう。

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