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    メールマガジン 「語ろうか、手話について」

No. 11 Rev.1                                        2001年12月12日発行
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  みなさん、こんにちは。
  忘年会にクリスマス。色々な行事が重なる季節になってきました。飲み過ぎ
には注意しましょう。

  今回はろう運動シリーズの3回目で「運転免許裁判」です。初版は昨年の9月
に配送されています。

  先週、先々週とろう者が裁判を受ける場合に起きる問題、例えば情報保障で
あるとか、裁判用語の通訳、そもそも裁判という制度を未就学者に適用できる
のか、という法の運用上の問題となった事件を見てきました。

  今週と来週は、法律そのものがろう者に不利に定められている事例を見てい
きます。それが今回お届けする「運転免許裁判」と来週の「民法11条改正への
軌跡」です。近年、「聴覚障害者を排除し参加を制限する法律の改正」運動と
いうのがありまして、その成果として様々な法律の改正がありました。中でも
医師法、薬剤師法の改正により、聴覚障害を持つ早瀬久美氏に薬剤師の免許が
与えられたという注目すべきトピックもあり、これはまさに法律の不備が改正
された運動なのですが、私に新規に記事を書く体力がないことと、この話はあ
ちこちで紹介されているので、また、いつか機会があれば、ここで紹介したい
と思います。

  とにかく、今日は運転免許裁判の話です。それでは、以下、再配信の原稿を
どうぞ。

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  今回は運転免許裁判です。資料も沢山あって前よりは書きやすかったです。

今回の参考文献は次の2冊です。

  [1] 五〇年のあゆみ : 財団法人全日本ろうあ連盟
  [2] ろうあ者 手話 手話通訳 : 松本晶行 文理閣

  この裁判は道路交通法が争点の中心となった裁判です。現在では、道路交通
法自体が改正されてしまったので、まず、1960年代当時の状況から説明してい
きます。

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  法律を読むのは面倒ですが、いましばらく我慢して下さい。今回、話の争点
となるのは、我々の間では「88条」として有名な、道路交通法です。

  以前の道路交通法88条には、このような記述があります。
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    第88条 (免許の欠格事由)
    次の各号のいずれかに該当する者に対しては、第一種免許又は第二種
    免許を与えない。
    一 大型免許にあつては二十歳(政令で定める者にあつては、十九歳)
       に、普通免許、大型特殊免許及び牽引免許にあつては十八歳に、
       二輪免許、小型特殊免許及び原付免許にあつては十六歳に、それ
       ぞれ満たない者
    二 精神病者、精神薄弱者、てんかん病者、目が見えない者、耳がき
       こえない者又は口がきけない者
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  問題は「耳がきこえない者または口がきけない者」には免許を与えないとい
う二項の方です。この条項があるために1973年まで聴覚障害者はどうあっても
運転免許を取得することはできなかったのです。

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  運転免許裁判は、ある聾者が被告になった事件が始まりです。その様子は参
考文献[2]に詳しいので、抜粋します。([2]は実名で、もっと詳しく載ってい
るので興味のある方は是非読んで下さい。松本先生の本はいいですよ。)

  1967年のこと。岩手県在住のAさん(当時25歳)は、補聴器をつければ少し聞
こえる程度の聴覚障害者。仕事はいくつかの店を経営していて、そこを回るた
めには何か移動手段、車かバイクが必要でした。しかし、聴覚障害があるため
運転免許試験を受けても落とされてばかりで、取ることができませんでした。
技術的には問題がありませんでしたが、聴覚検査の段階で落ちるのです。
  しかし、仕事はしなければなりません。そこで、無免許でバイクを乗ること
になります。タクシーなんて使うほど余裕はありませんでした。当然、警察に
見つかれば罰金を取られます。何回も取られるうちに、警察とも顔見知りにな
ります。もっとも警察からすればお得意さまにでもなるんでしょうか? それは
冗談としても、その当時のAさんの会社の事業予算書には、罰金の項目があっ
たそうです。これは冗談ではない、らしいです。

  そのうち、何がきっかけかわかりませんが、Aさんは正式な裁判で争ってみ
ようと考えました。そもそも交通違反での罰金というのは略式裁判の結果で
す。スピード違反などで切符を切らた経験のある人はご存じだと思いますが切
符を切るときにサインをしますね。あのサインは「正式裁判はやらずに、略式
で罰金を払って終わりにします。」という意味があります。ですから、もし、
不服ならば本当は正式な裁判もできるわけです。もっとも、時間もかかるし、
ほとんどの場合は負けますから、普通はやりません。

  しかし、Aさんは思うところがあって正式裁判に踏み切りました。Aさん曰く
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    - 試験に落ちるのは聴覚障害があるだけで、技術的な問題はない。
    - 過去に切符を切られたのは無免許運転だからであり、運転が危険
      なわけではない。
    - 仕事上、運転免許が必要なのに取れないのは差別である。
    - もし、免許が取れないなら、国はそれなりの保障が必要だと思う
      が、そんなことは全くない。
    ------------------------------------------------------------
という主張(かなり要約していますが。全文は参考文献[2]にあります。)を掲
げました。第一回公判は1968年3月に開かれます。歴史に残る運転免許裁判の
始まりです。

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  そもそも耳が聞こえないと車の運転ができないのでしょうか? 私はこの点に
少々疑問を感じます。音が車の運転に影響する場面で、すぐに思いつくのは救
急車などの緊急車両の接近に気がつかないことがあげられます。救急車は赤信
号でも突入してきますから、近づいているのがわからないと事故になることも
考えられます。しかしです。最近の車は防音性能が上がっていますから、ステ
レオをかけてクーラーで窓を閉め切っていると、外の音なんてあまり聞こえま
せん。健聴者がそういう車に乗っているのに、聾者だけが車に乗れないのは理
不尽だと思います。それに救急車が近づいてくれば、周りの車が脇に寄った
り、止まったりするので、自然とわかると思います。

  クラクションが聞こえないのが問題ではないかという意見もあるでしょう。
でも、試験ではクラクションが聞こえることは検査しているので、この点は杞
憂です。それに、私はクラクションって必要かな? とも思うのです。私も免許
を取って約10年。走行距離は30万km以上になりますが、ほとんどクラクション
を鳴らしたことがありません。クラクションを鳴らすときにはすでに手遅れか
もしくは事故を誘発するだけなんじゃないかと思います。ビービーうるさい
車ってろくな運転はしていません。

  裁判でも、音が聞こえないことによる運転の危険性が焦点となります。裁判
では鑑定人の依頼が大変だったなど色々あったようですが、今回はばっさり割
愛します。

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  さて、話は意外な方向で解決に向かいます。

  一審、二審とAさんら原告は、裁判は負け続け、1973年に最高裁での裁判中
のことです。警察庁は「いわゆるろうあ者に対する運転免許についての運用通
達」という通達を出しました。これは道路交通法施行規則第23条に規定されて
いる適性試験に補聴器の使用を認めるものでした。また、88条の「口のきけな
い者」についても「警音器の検査により聴力検査に合格し、かつ他人の言語を
理解し、意志の疎通ができる者であれば、運転免許の欠格事由とする理由に乏
しく」「今後このような者は法八八条の口のきけない者にはあたらない」とし
た点が画期的です。

  つまり、目が悪ければ眼鏡をかけてもいい、耳が悪ければ補聴器を使っても
いい、という当たり前のような、でも今まで当たり前でなかったことが、よう
やく当たり前になったのです。この時から、10m離れて(90ホン)クラクション
が認識できれば合格という運用的な変更で取れるようになりました。

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  さて、数年前から聴覚障害者団体が中心になり、差別法の撤廃を目指した運
動が始まりました。差別法とは、法律の中で、聴覚障害者を阻害する条項が含
まれているもので、それを改正しようという運動です。特に医療関係の法律は
軒並み聴覚障害者に免許を与えることを認めておらず、ここに焦点が集まりま
したが、結果的には先に道路交通法などの法律の方が改正されました。

  平成13年6月に道路交通法は改正され、この条項はなくなりました。道路交
通法の一部を改正する法律が制定され、1〜3年以内に施行されることになって
います。これにより、法律上は身体障害による制限が外れ、試験の実施要項に
より免許が取得できるかできないかと言うことになりました。
  道路交通法については、法律では撤廃されましたが、これは現状の追認とも
言えます。実体としては、試験そのものが変わるわけではなく、全く聞こえな
い人は免許を取得できない可能性は高いわけです。そこで、全日本ろうあ連盟
は次のような要望書を出しています。

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  http://www.jfd.or.jp/yobo/2001/keisatsu_yobo20011107.htm

  聴覚障害者の福祉施策への要望について

    1. 緊急連絡が携帯電話の文字メールでできるよう体制を整備し、設備
       の強化を図ってください。
       - 携帯電話の文字メールによる緊急連絡方式の実用化が進んでいる
         大阪府警等を参考にして、全ての都道府県で実施できるよう必要
         な措置を講じてください。

    2. 「道路交通法施行規則第23条」を改正してください。
       - 道路交通法第88条は改正されましたが、免許試験(適性試験)は何
         ら改正されておりません。全ての聴覚障害者が運転免許を取得で
         きるよう、適正試験の改正をお願いします。

    3. パトカー等のサイレンを感知する機器を開発してください。
       - 高齢社会が進み600万人の難聴者・聴覚障害者がいる現状をふま
         えて、パトカー等の緊急自動車の独特のサイレンを、光センサー
         等で感知する機器の開発をしてください。

    4. 交通違反の講習会受講周知連絡方法は電話だけでなく、FAX・メー
       ル等の方法も取り入れてください。
       - 交通違反者のための講習会の日程等の確認方法が電話連絡による
         ため、聴覚障害者は電話ができず、不利益を受けることがありま
         す。FAX番号も明示し速やかに確認がとれるようにしてください。

    5. 警察官の聴覚障害者への理解を深めてください。

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  さて、最近綺麗な終わり方ばかりしているような気がするので、全通研やろ
う協発行の本や記事では見られないような泥臭い話で締めくくります。

  皆さんは、聾者の運転する車に乗ったことはありますか?
  私は大学学部在籍中、車を持っていないときに結構乗せてもらいました。こ
ういうとなんですけど、最初はすごく恐かったですねぇ。片手運転当たり前。
手話をしながら運転しますので、私が助手席でそれを見るのはいいんですけど
私が手話をするとそれを見るわけです。「前を見てぇー」とは思うのですが、
そう言う手話も見るわけですから、もう、どうしていいかわからんでした。
  それと、運転している聾者がバックミラーで後ろの座席の人と話すのはご存
じですか? よくあの小さい鏡で器用に見るなぁ、と感心してました。

  そのうち、私もそういうのに慣れました。危ないとは思いますけど、自分で
車を運転するようになって、改めて周りの車を見ると、普通の人でもフラフラ
と危ない運転の人が多いことに気がつきました。つまり、耳が聞こえないから
と行って運転ができないわけではないし、特に危険だとは限らない。そして、
運転とは人間の能力を超える行為です。元々人間の動体視力を越えた能力を要
求しています。つまり、聴覚だけではなく、色々な感覚を駆使しなければ車は
とても危険な手段です。それは健聴者であっても同じ事。携帯電話をしながら
の注意力散漫な運転、サンダルでの運転、脇見、飲酒、右左折時の確認不足、
どれもこれも、人間の能力以上の物を制御する「手の届く範囲での努力」でし
かない。耳が聞こえないことは、たしかに不利かもしれないけど、飲酒や脇見
に比べたら、たいしたことはないように思います。でも、耳が聞こえない分だ
け、注意して運転しないとならないのは確かでしょうけど。

  とにかく、いくらか聴覚障害者は運転免許を取りやすくなりました。聴覚障
害者の社会参加が広がることを祈ります。

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  では、また水曜日に会いましょう。
  今度は「民法11条改正への軌跡」の再配信です。

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