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    メールマガジン 「語ろうか、手話について」

No. 6                                               2000年 8月 9日発行
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  夏らしい暑さが続いていますね。今月下旬に全通研集会が岡山で開催されま
す。残念ながら、私は不参加です。岡山はちょっと遠かった...

  来週は配信システムの「まぐまぐ」がお休みなので、発行日がずれます。も
しかしたら、休んでしまうかも... なぜなら、ずっと仕事なのですから。皆さ
んは、お休みを堪能して下さい。

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今回の「語ろうか」はお便りの紹介から始めます。

    広島県の匿名希望さんからのお便り
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    わからない手話、知りたい手話表現があるとき、どうしてますか。

    - 指文字で表す。これは第1段階として当然のこと。
    - 辞典で調べる。でも載っていない。
    - ろうあ者にきく。これも当然なんだけど、その人が知らなかっ
      たら・・・

    そんなときの方法を知っていたら教えてください。
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  「これはどうしようもないかな」と最初思ったのですが、しばらく考えてい
るうちに、ここには色々な問題が凝縮されていることに気がつきました。そこ
で、今回は「未知の単語を表現する」と題しまして、思うことをつらつらと書
いてみます。

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  幸いにも手話には指文字があります。このおかげで、どんな単語でも「読
み」で伝えることができます。でも、時々通じないことがあります。それは聾
者が読みを知らないときと、手話で該当する単語がないときです。

  それぞれ私にも思い出深いエピソードがあるので紹介します。

  まず、読み方がわからないという話です。

  私が、ある聾者(Aさんとします)に、地名の「矢作」という手話を教えても
らおうとした時のことです。私は指文字で「やはぎ」と表したのですが、Aさ
んは「そんな地名は知らない」と言います。私はAさんが矢作の近くに住んで
いることを知っていたので、矢作を知らないってことはないだろうと思い、紙
に「矢作」と書いて見せました。するとAさんは「なんだ、矢作ね。手話は
『矢/作る』だよ。それ、やはぎって読むのか。へぇ、勉強になったよ。」と
言いました。つまり、漢字の単語は知っているけど読み方を知らなかったので
す。「耳が聞こえないとは、こういうことか」とショックを受けたのを覚えて
います。

  聾者は目で文字を確認するので、漢字はわかるけど、読み方がわからないと
いうことが往々にしてあります。簡単にしようとして、ひらがなで書いたりす
ると余計わからないということもあるわけです。もちろん、そういう時には指
文字も役に立ちません。手話を教えてもらうときには紙とペンは必須ですね。

  ところで、Aさんはワープロの仮名漢字変換は「よくわからん」とぼやいて
いました。漢字を入力するためには、ひらがなで打ち込む必要がありますから
ね。最近では携帯電話のE-Mailもありますけど、苦戦しているようです。

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  次に、手話の単語がないという話です。これは初級講習会に参加している人
に聞いた話です。

  手話初心者のBさんは、先生の聾者Cさんに「曜日」という手話を聞いたのだ
そうです。すると、返事は「『曜日』という手話はない」というものでした。
Bさんはびっくりして「『29日は何曜日?』という手話はどうやって表すのです
か?」と聞いたのだそうです。すると「そういう時は『29日は火曜日か?』と聞
いてみる。そうすれば、『そうだ』とか『いや、水曜日だ』という返事がある
からわかる。」と教えられたとのこと。
  確かに全国的に通じる「曜日」という手話はありません。新しい手話で、
「7」の手形でヒラヒラさせる「曜日」がありますけど、あんまり通じないみ
たいです。このCさんの方法は、とても実践的で納得させられるものがありま
すが、単語がないということはそれだけ表現の制約があるわけですから、なん
とも納得がいかない点もあります。

  手話の単語が日本語に比べて少ないのは事実です。誤解して欲しくないのは
だからといって、手話が劣っているわけではありません。手話は発展中なんで
す。そのうち、語彙は十分多くなり、前述の「曜日」のような問題は解消され
るでしょう。これは、また後日お話しします。

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  次に辞書は役に立たない、という話です。

  現在手話の辞書として何冊か市販されています。
  語彙が一番多いのは「新・手話辞典 (中央法規出版)」で4300円。角川の類
語辞典を元に作っており収録語彙数は3万語。でも、この数は類語なども入れ
ているので、実際はもっと少なく、あんまり使い勝手もよくありません。
  イラスト手話辞典(ダイナミックセラーズ)は2分冊(各3800円)は、見出し語
も「若気の至り」のような慣用句も含まれていて面白いのですが、創作手話が
多く、必要な時に検索して使うような用途には向いていません。
  組織的に最も権威があるのが「日本語-手話辞典(全日本ろうあ連盟)」で、
用例により見出し語を説明しているのでわかりやすく、語彙数も安定した単語
が8000語も収録されています。問題は値段が高いこと(18500円)。
  個人的に最もお薦めなのが「手話・日本語大辞典(廣済堂出版)」3800円にし
て、13000語の見出し語を収録。手話から検索もできます。

  さて、いくつかの辞書を紹介しましたが、日本語の辞書と比較してみましょ
う。日本語の代表的な辞書である「広辞苑」は収録語数が22万語あります。手
話辞典の収録語数とは桁が1つ違いますが、これでも必要な単語が載っていな
いという批判が出ます。手話の辞典は1万語程度。足りるはずがありません。

  それに辞書に載っている手話は編者が住んでいる地域の手話だという問題が
あります。皆さんがそれを見て、使ったとしても、聾者に通じないことがよく
あります。

  このような訳で、辞書はある程度参考にはなるとしても、結局は参考にしか
ならない、ということを理解している必要があります。たまに、辞書の内容を
完全に信じきって、聾者に対して「あなたの手話は違う」という人がいます。
信じられないようですが私も2人ほど見たことがありますし、あちこちでそん
な話を聞きます。活字を信じやすい人はいますが、せめて「語ろうか」を読ん
でいる人は、辞書を絶対視せず、冷静に判断するようにお願いします。

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  原点に戻って考えましょう。あなたが聾者に教えて欲しい単語は、結局、あ
なたと話をする聾者が理解できて、その聾者が使う手話で教えてもらわなけれ
ば意味がありません。あなたの地域で全く使われていない手話を辞書やテレビ
などから得たとして、一体誰に対して使うのでしょう? あなたが会う聾者が理
解できなくては元も子もありません。

  結局は、その単語をあなたが説明して、聾者に教えてもらうしかないと思い
ます。そのためには、日本語の段階で「言い換え」して、説明する力が必要で
す。先々週話した日本語の力がここで生きてきます。教えてもらう側の日本語
の力、教える側の手話の力がかみあうという、お互いの努力が必要です。いっ
そのこと、手話表現を創作するつもりで、教えを請うのもいいかもしれません
ね。

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  来週の配信は、たぶん2日程度遅れます。
  では、夏バテには気をつけて、また来週お会いしましょう。

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