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               メールマガジン 『語ろうか、手話について』
 
No. 4 Rev.1                                         2001年 8月22日発行
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  暑さも急に緩んできて、夏休みも終わりだなぁ、と感じるようになってきま
した。皆さんいかがお過ごしでしょうか。

  私は、最近、PC要約筆記の勉強をしております。OHPを使った手書きの要約
筆記はご存じの方も多いと思います。講演などで、話の内容を要約して、OHP
で映し出すものです。手話ではなくて、文字で情報を提供するわけです。この
手書きをパソコンにしたものがPC要約筆記です。速度でも手書きに比べて早い
し、見やすいので、今後広く普及するのではないかと思います。「語ろうか」
は手話の話をすることになっていますが、幅広く聴覚障害の話として、そのう
ち紹介するかもしれません。なんともわかりませんが。

  今週と来週は再配信です。手話の勉強法について考えていきます。
  以前に配信した時に、「ナチュラルアプローチ」についての問い合わせが来
ました。これは日本語を一切介在させずに教育する方法です。なんとなく私も
知っているのですが、初心者に必ずしもナチュラルアプローチが有効かという
と、そういうわけでもないと思うのです。第2言語の修得には、もうちょっと
楽な方法があるのではないか。それに、構造体系がまだはっきり判明しておら
ず、単語の表現の方言や個人差が大きい手話の場合、もうちょっとやり方があ
るのではないか。そう思って書いたのが、今週と来週にお送りする、「手話の
勉強法試行錯誤」です。その名の通り、色々改良していきたいと思うのですが
1年前と比べて、それほど変わっていなかったりします... 皆さんもサークル
などの実践の場で、色々と試して、もっと良い方法を探索してみてください。
良い方法が見つかった場合は、是非、御報告をよろしくお願いします。

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  「語ろう」のNo.1で、最もよく聞かれる質問は「○○地域にある手話サーク
ルを教えて下さい」であると言いました。

  では、2番目によく聞かれる質問は何だと思いますか? それは「手話を覚え
る良い方法を教えて下さい」です。切実な質問であることはわかりますが、こ
の答えは私が聞きたいぐらいです。「学問に王道なし」言葉を覚えるのに早道
はありません。

  とは言いつつも、私も何かないかと探し回っていたことはあるので、その中
からいくつか役に立ちそうな情報をお届けします。題して、今日のテーマは、
「手話勉強法試行錯誤 その1」です。

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  さて、いくら王道がないとは言っても、なるべく効率よく、楽しく手話の勉
強をしたいものです。もちろん、私がそのような術を隅から隅まで知るわけで
はありません。私の体験を話しても、それが皆さんにも当てはまるとは限りま
せん。言葉とは、人間の脳の活動において、最も深遠なるもの。それを学習し
ようとするのですから、100人の人間がいたら、100通りの方法があるのではな
いかと思います。今回ご紹介する方法も、ある程度は参考に、そして皆さん独
自の良い方法を考えついたら、是非、「語ろうか」までご報告下さい。

  ところで、手話は他の英語などの言葉と違い、まだまだ学習方法が確立され
ていません。それは、手話の文法がまだよくわかっていないこと、手話が発展
中であること、個人差や方言の差が大きいこと、それから需要が少ないこと、
色々な理由があります。ですから英語とはまた違ったアプローチがあってもい
いのではないかと、個人的には思うのです。もちろん、英語のように
This is a penから始まり教科書に沿って勉強してゆける場合は、そのような
方法も良いでしょう。はたまた、英会話教室のように、ネイティブの方から教
えてもらうのもいいでしょう。でも、それが出来ない場合も手話の場合はあり
ます。とにかく、手話は学習方法までもが未知の領域であるということです。

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1. 初級レベルの手話にふれる

  では、具体的に最初にどこから手をつけるか?
  いくらなんでも、最初からネイティブの聾者相手に教えを請うのもレベルが
高すぎると思います。普通の人なら、とても簡単なところから、例えば挨拶ぐ
らいから始めるのがよろしいのではないでしょうか。

  現在、手話を初めて勉強する場合には、いくつか方法があります。

  (1). NHKの手話講座

    当初、様々な方面から不備を指摘されてきた講座ですが、年々改良されて
  おり、ここ2年ぐらいの講座はかなり質が良くなっていると思います。教育
  テレビで半年シリーズで放送されています。4〜6月が前半、7〜9月が前半再
  放送、10〜12月が後半、1〜3月が後半再放送です。興味があれば、いつから
  始めてもそれほど問題ないと思います。継続的に見て下さい。だいたい半年
  も見ていると、初級と言われるレベルは身につくと思います。(これは簡単
  な文が表現できる程度のレベル)
    http://www.nhk.or.jp/fukushi/syuwa/syuwa.html

  (2). 初級手話講習会を探す

    どうしてもNHKの講座を見逃すという方には、地域の初級手話講習会で無
  理にでもたたき込む方法もあります。市や町の広報をよくチェックすると年
  に1度ぐらい、10回ほどの初級手話講習会が開かれています。運良く見つけ
  て、通えそうだったら、是非、参加して下さい。地域の聾者と話ができる
  チャンスです。

  初級手話講習会も見つからず、NHKの講座も中途半端な時期ならどうするか?

  うーん、難しいですね。お金をかけても良いのならビデオ教材があります。
通信販売でもありますし、全日本ろうあ連盟が販売している物もあります。た
だ、具体的な教材の内容を私はあまり知りません。というのは、試しに購入し
ようとしても、これが高いのです。以前、いくつか見た範囲では、とても数千
円払うような気は起きませんでした。それなら、まめにNHKの番組を録画した
方が良いのではないかと思います。

  それから、あまり本はお薦めできません。本だけで勉強した人の手話はどう
も違うんですよね。手の方向が違ったり、動きがギクシャクしていたり。意味
と手の形はなんとかつながっているのですが、それが文章になった時にどうも
不自然なんですよね。やっぱり、動きを伝えるのは本では限界があると思いま
す。
  もっとも、これはNHKの放送だけで勉強しても似たり寄ったりです。初級講
習会も指文字や基本単語の勉強が中心ですから、本格的な会話が出来るまでに
はほど遠い段階で終わることが多いです。この段階で勉強できることは、本当
に基礎的なことだと割り切りましょう。会話できるまで使えるようになりたい
と思ったら、是非、次の段階に進んでください。

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2. 母国語(日本語)を磨く

  「手話の勉強をしたいのに、なぜ、日本語を?」と思うかもしれません。で
も、これが重要なのです。他の言葉を話すと、わかってくることがあります。
それは、いかに自分が言葉をいい加減に使っていたかと言うことです。特に日
本語の場合、主語が省略されたり、「あれ」とか「つまり」などの曖昧な言葉
の言い回しで通じるところがあるので、「話す」ということがしっかりしてい
ないことがよくあるのです。外国語を勉強すると、そのことを痛感します。自
分の言いたいことがしっかりしないと、「話す」までに至らないわけです。

  そういうわけで、言葉を学ぶためには、自分の言葉を身につけていなければ
なりません。これは絶対必要です。自分の言葉が使いこなせないのに、どうし
て他の言葉が使いこなせるわけがありましょうか? あなたの母国語が日本語な
らば、日本語の力を十分につけておく必要があります。

  ある現象や意志を表現するとき、まずはもやもやとした状態で頭の中にその
現象や意志を思い浮かべるわけで、それから声や文字であなたの頭の中のこと
が外に出ていきます。もやもやと思い浮かべるだけならどんなに難しいことで
もできますが、これを外に出すためには頭の中でまず日本語で組み立てること
が必要です。具体的には、ある現象や意志を次のような構造に組み立てていく
必要があります。

  - 何がどうしたのか? (主語と述語の明確化)
  - 主語と述語にどんな形容詞がつくのか?
  - 形容詞はどのような順番で組み立てると最もわかりやすいのか?
  - 時制は? 昔の話か今の話か未来の予想か?
  - 肯定文か、疑問文か?

  このような作業は、普段は漠然と、自然とやってしまっています。また、声
に出しながら適当に帳尻あわせをすることもできます。「語尾上げ」という現
象があります。「例えば、最近の子供ってすぐに切れる? ってことがあるわけ
で」のような話し方が最近目立ちます。「切れる」は、当人には「断定の気持
ち」があるのですが、話ながらそのあたりを曖昧にして、聞き手の雰囲気に合
わせながら、自分の意見を相手に受け容れやすくするような帳尻を合わをする
ことがあります。
  これは自分の母国語だからできることです。使い慣れない、別の言葉を話す
となると事情は別です。バイリンガル環境で育ったのでもなければ、前述した
ように話の内容を明確にしていく作業を意識的に行う必要があります。

  このような日本語の能力は、漢字を知っているとか、敬語が使えるというよ
うなものとは、ほとんど別物です。どちらかというと、論文の書き方、文章作
成述の方に近いです。
  余談になりますが、ちょっと前に「日本語練習帳」という本がベストセラー
になりました。内容は日本語の使い方についての解説です。例えば、「自動車
が走る」「自動車は走る」はどのように意味が異なるか、ということが延々と
書いてあります。私にはなんであの本が売れるのかわかりませんでした。だっ
て、そんなの人に教えられなくても、日本語を使える人なら常識的な話じゃな
いですか... でも、今は常識的なことも知らない人が増えているのかもしれま
せんね。

  さて、私が自分の専攻を通して、日本語能力の尺度になると思った要素が3
つあります。

  1つ目は「要約」です。長い文章の内容を把握して、短くまとめること。そ
のためには、文意を把握する力が必要です。逆に、何が言いたいかをしっかり
と明確にする力が必要です。

  2つ目は「言い換え」です。ある単語を別の単語に変える。そのためには、
語彙を知らなければなりません。沢山の単語を覚えている必要があります。
  昔、私が受けた試験にこんなものがありました。「泡」という言葉を言い換
えて下さい、というものです。私は「あぶく」ぐらいしか出てこなかったので
すが、実は他にも「気泡」「泡沫」「バブル」「シャボン」などがあります。
このような知識は、適切な表現を選ぶ選択肢が増えるという意味で、とても有
用です。
  
  3つ目は「非文の識別」です。耳慣れない言葉かと思いますが、非文とは感
覚的、文法的におかしな文のこと。「緑が蜂は山で手を振っています」のよう
に単語が日本語でも、意味をなさない文はたくさんあります。意味だけでなく
なんとなく不自然な文を見分けることが出来るか否かの能力、それが非文の識
別です。
  これらの能力を高めることで、自分の中のもやもやを的確に構成し、手話と
して表現することができるようになるはずです。

  日本語の力をつけるにはどうするか?
  これは、上述した項目をそれぞれ練習するしかないでしょう。新聞の記事を
半分に要約したり、色々な文章を読んで表現を変えてみたり、たまには辞書を
読んでみたり等々。特に非文に対する感覚は、数多く文章に触れることでしか
育たないと思います。日本語練習帳のような本で勉強するのもいいですが、所
詮クイズでしかありません。数をこなすためには、とにかく読み書きすること
です。固い本から週刊誌まで、多種雑多な文をこなすのが良い訓練になると思
います。

  最後に再び余談。手話は映像的と言います。ある面では事実ですが、日本語
でも映像的な表現は可能です。手話の映像的な表現を力説する人は、日本語の
力が弱いのではないでしょうか。よくある例で、手話では「歩く」でも色々な
表現があるといいます。フラフラ歩いたり、スキップして歩いたり。でも、日
本語だって、このように文字で表現できます。風景だって、「リンとした朝の
涼やかで張りつめた空気の中、もやのかかった緑の中で、杉はすっくり立って
いた」のように、日本語も手話に負けず劣らず豊かな表現を持ちます。手話の
方が見た目にわかりやすく、派手なことは確かですが、手話の方が表現力があ
るというのは、言い過ぎだなと思います。そういう主張は日本語の力が足りな
い証拠なのではないかと思います。

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今週はここまで。では、また来週会いましょう。

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