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    メールマガジン 「語ろうか、手話について」

No. 3 Rev.1                                         2000年 7月25日発行
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  一週間ぶりのご無沙汰です。ようやく学校は夏休み。ということは、まだま
だ、この暑さが続くようです。学生の皆さんには申し訳ありませんけど、夏休
みはどうでもいいから、早くこの暑さが終わって欲しい今日この頃です。

  今週末は全通研学校の大阪編に行きます。そして、本職も忙しくて時間がな
くて、今「語ろうか」の原稿ストックが底をつきた状態です。来週は「語ろう
か」も夏休み、つまり配信しないかもしれません。全通研学校で講義を聴きな
がら原稿を作るかもしれませんけど、今のところ、だいぶ厳しい状況ですの
で、来週の配信は期待しないで下さい。どうぞ、御了承下さい。

  来週は選挙と言うこともあり、いくつか選挙関係の手話通訳ネタのたれこみ
をもらっています。どうもありがとうございます。政見放送の手話通訳という
大きなネタはあるのですが、苦手な分野なので果たしてまとめられるかどうか
わかりません。頂いたネタは参考にさせもらっています。今後ともどうぞよろ
しくお願いします。

  そうそう、全通研学校は私にとって久しぶりの全国規模の集まりになるんで
すが、私はそういう時に各地で販売しているような書籍を買い集めることにし
ています。もし、今週末の学校に参加される方で、支部の何周年記念誌とか、
地域の手話みたいな本を余って持っている方がいましたから、個人的に売って
下さい。これも、どうぞよろしくお願いします。

  さて、今日は再配信です。過去の「語ろうか」を振り返ってみても、かなり
穏健な原稿の一つを再編集してみました。ご意見、ご感想はいつもの通り募集
中です。これまた、どうぞよろしくお願いします。

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  今回の話は、本当は「語ろうか」のNo.1に配信しようと思っていたほど、誰
にも文句を言われないような、手話学習の初心者向けの内容です。とは言って
も、色々つっこみどころはあるので、手話初心者でない人は、細かいところを
チェックしてお楽しみ下さい。題して「初めて手話を学ぶ人へ」です。

  ということで、今回の話は1年も手話を勉強していれば、自然とわかるよう
な事柄ということになっています。

  今回の御題は次の3つです。

- 手話を使う人は意外と少ない
- 手話は世界共通ではない
- 日本の手話も1つではない

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- 手話を使う人は意外と少ない

  「手話 -> ろう者 -> 聴覚障害」という連想は、一般的なものだと思うので
すが、実は、それほど手話を使っている人は少ないという話です。

  聴覚に何らかの障害を持つ「聴覚障害者」は、平成8年度の厚生省(現在の厚
生労働省)の調査で約30万人とされています。
    参考: http://www1.mhlw.go.jp/toukei/h8sinsyou_9/1-3.html

  さらに手話が使えると回答している人は、このうち14%、わずか4万人です。

  この統計結果は、私の実感とは少し違うので、そのまま鵜呑みにするわけに
はいかないのですが(調査では「高齢者ほど手話が使えない」という結果が出
ていますが、私は高齢者の方が手話を使う率は高いように感じます)、しかし
手話を話せる聴覚障害者が意外と少ないことは確かでしょう。

  「耳が不自由 = 手話が話せる」ではなく
  「耳が不自由 -> もしかすると手話が話せるかもしれない」なのです。

  これはどういうことかと言えば、手話を知らない聴覚障害者が多いと言うこ
とです。早い話が、ある程度の年齢(一般的には小学生以降を指すことが多い
です)になってから、失聴(耳が聞こえなくなること)になった人は、手話を知
らないことが多いと言うことです。
  それで、「ろう者」と「中途失聴者」という言葉があります。早い時期に失
聴したために手話を母国語として身につけた人を「ろう者」、日本語を母国語
としている人を「中途失聴者」と言うわけです。これは単なる言葉の使い分け
ではなく、その人にとって手話の方がよいのか、字幕の方が役に立つのかとい
うことを伝えるためにも重要な情報になります。
  あまり根拠のある数字ではありませんが、ろう者と中途失聴者の割合は1:10
ぐらいと言われています。手話を使うのでろう者の方が目立ちますが、実際は
中途失聴者の方が圧倒的に多いと思われます。

  ですから、耳が聞こえない人に、手話で話しかけても、実は、役に立つ確率
は低いのです。手話を学ぶ前に、手話が何でも解決してくれるという思いこみ
を頭から取り去って下さい。聴覚障害者と話すときは、その人がどんな手段で
なら話ができるのかを、よくよく確認することを忘れてはなりません。もちろ
ん、中途失聴者や難聴者でも手話を得意とする人もいます。何が当人にとって
ベストな選択なのかは、個々人それぞれであることを忘れないで下さい。

  その上で、あえて強調しますが、4万人の聴覚障害者が手話を必要としてい
ることも忘れてはなりません。4万人と言えば、ちょっと前まで私が住んでい
た町の人口と同じぐらい。これも、たいへんな人数です。4万人の人々にとっ
ては、命綱のようなものであることも忘れないで下さい。

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- 手話は世界共通ではない

  よくよく落ち着いて考えれば、当然なんですが、日本で使われている手話と
アメリカで使われている手話、イギリスで使われている手話、フランスの手話
タイの手話、オーストラリアの手話、みんな違います。

  私は、海外の手話を学ぼうという気が起きないので、詳しいことは、よくわ
かりませんが、少なくともアメリカの手話(ASL: American Sign Language)は
見ていてもサッパリわかりません。以前、ウガンダの手話を見る機会がありま
したが、なんとなくわかるようで、やっぱりわかりませんでした。

  言語は、人が生活する範囲で発達するものですから、海の向こうの手話が日
本の手話と違うのは当然でしょう。音声言語が異なるところは、手話も異なる
と考えて良さそうです。
  パントマイム的な表現では、どこの国でも通じるようなものがありますが、
それはかなり特殊な事象で、普通は手話といえば、文法(語順や単語の組み合
わせ方法)や単語の意味を含めて考えますので、各国で違うことは確かなよう
です。

  少し例外があるとすれば、戦争や植民地の背景を持つ地域があります。例え
ば、韓国の手話は日本の手話と似ているという報告があります。日本手話学会
1997年大会での竹内幸恵氏の報告によれば、1910年頃から、朝鮮の聾学校でも
日本の手話を教えるといったことをやっていたそうです。太平洋戦争では、日
本は、アジア各国に日本語も強引に植えつけようとしましたが、手話でも同じ
ことが行われていたそうです。戦後50年以上たち、今ではだんだんと違う手話
になりつつあるそうです。韓国に行っても「手話が似ている!」と無邪気に喜
んでばかりはいられないなぁ、と個人的には思います。

  ついでなので、もう少し脱線します。
  言葉というのは、人のアイデンティーや民族の誇りといったものに関係して
きます。普通、自分の話す言葉は、誇りにして、大切にしますよね。「最近の
若者の日本語は乱れている」と嘆く人はその典型ではないでしょうか。またア
メリカ人は英語を積極的に輸出して、世界制覇する気なんじゃないかと思うほ
どの勢いです。
  自分の話す言葉を大切にするのは、聾者も同じです。日本の聾者は日本手話
を大切に、そして誇りにしています。
  なんで、こういう話をしたかというと、たまに、「手話が世界共通ならいい
のにねぇ」という意見を手話の初心者から聞くことがあります。よく状況がわ
からないうちはしょうがないかな、とも思うのですが、これは、とても失礼な
意見だと、私は思います。理由はわかりますよね。もし「世界で英語が共通語
ならいいのにねぇ」と言われたらどう思いますか? 日本語に誇りを持つ我々と
しては、そんな簡単に捨てられるかって思うでしょう。そんなわけで、私は
軽々しく「全部同じなら...」なんて言うものではないと思います。

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- 日本の手話も1つではない

  海の向こうの手話が、日本の手話と異なることは述べました。さらにややこ
しいことに、日本国内でも手話は様々です。地域、年齢、個人によって色々な
手話を見ることができます。

  どうしてこのようなことになっているのでしょうか?
  原因はいくつかあります。

  まず、手話は見る言語であるため、音声のように広まりにくいという性質が
あるります。手話は窓越しに話せるという利点がある一方で、見えないほど遠
い部分には伝わらない言葉です。音声言語の場合は、周囲の音が嫌でも聞こえ
てきて、どんどん広まっていくのですが、手話は意識的に見たり、話したりし
なければなりません。そのため、音声言語に比べて手話は共通化されにくいと
いう性質があります。

  次に、学校で手話を教えていないという事情もあります。なんと、驚くべき
ことに、つい数年前までほとんどの聾学校では手話を使うことが禁止されてい
ました。ですから、今の手話は先輩から後輩へ、友達同士で伝わっていったも
のなんです。ですから、当然、地域や世代による違いが生じてきます。以前は
聾学校ごとに違う手話が使われているという状況があったそうです。たぶん、
単語の表現について、そういうことがあったのだと思うのですが、今でも聾学
校特有の手話というものを見ることがあります。私の感覚では、これは方言と
いうよりは、仲間内で使う省略語のような感じです。
  もっと広い範囲では、関東の手話と関西の手話が違うという現象はありま
す。これも日本で最初の聾学校が京都にあったことと、現在の人口が東京に一
極集中しているので、関西と関東で比較されることが多いからだと思います。
全国的に見てみれば、都道府県や政令指定都市レベルで、少しずつ表現は違っ
ているように感じます。

  現在、NHKでの手話ニュースなどで、テレビで手話を見ることが多くなった
ためか、語彙の共通化が進んでいるように感じますが、まだ数十年は混沌とし
た状態が続くでしょう。

  このようなわけで、皆さんがサークルで聾者の手話を見ると「この前に習っ
たのと違う表現だなぁ」と思うことがしばしばあります。面倒だなと思わずに
むしろ「違いを楽しむ」ぐらいの気持ちで手話を覚えていきましょう。

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  手話の違いや聾学校での手話教育など、いくつかのテーマは、別の回で取り
上げていますので、興味があればバックナンバーも読んでみて下さい。掘り下
げると色々な話題が詰まっている話なので、今回の話は、またさらにつっこん
で語ってみたいとも思っています。

  では、また次回の「語ろうか」で会いましょう。

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